■ 大輔と昌平 - 第三話 浮気の虫
第三話 浮気の虫
桜の花もすっかり散って、日一日と緑の色が濃くなってきた。
天気の良い日曜日だったが、ふたりは外出しないで家に居た。
大輔は日当たりの良い縁側で、敷き布団を引き出して、その上に伸びのびと横たわっていた。彼はのんびりと昌平に声をかけた。
「昌ちゃん、水原先生はどうだった?」
昌平のほうは、大輔の質問にすぐ答えられる状況ではなかった。なにしろ彼の可愛らしい口は、膨れ上がった肉根で塞がれていたからだ。
「どうだったって、なに?」
大輔の性器からいったん口を離すと、昌平は逆に聞き返した。それから、一刻も惜しいというように、再び大輔の股間に顔をうずめた。
「だから、あの先生、よかったのか?」
今度もすぐには答えず、昌平は巨大な男根に舌を這わせた。
瘤の盛り上がったようなカリの円周をぐるりと舐めまわし、プリッとした唇のような尿口に吸いつく。それから蜜袋の二つのタマの間を、じんわりと舐めさげる。
昌平好みの玉袋だった。タマが大きいので、垂れ下がるのではなく、丸々と膨らんでいる。
舌を使いながら、指先で菊門にいたる蟻の門渡りを刺激すると、大輔が気持ち良さそうにうめき声を上げた。
「あ、そこいい――で、先生、どうなんだ?」
やれやれと言うように、昌平は顔を上げた。
「なんで水原先生のことを、そんなにこだわるの?まあ、先生のセックスは、可も無く不可も無しってところ。――それより、先生の本命はダイちゃんだよ」
「なんでおれが本命だ。あの先生、タチだろ」
「ウケもやるようだよ。それもでっかいチンポが大好きみたい」
水原医師は昌平の主治医だが、過去の大切な思い出の人に似ていた。そのことを、軽い気持ちでダイちゃんに言ったのが間違いだった。ダイちゃんは、勝手に医者と渡りをつけて、昌平を医者の家に送り込んだのだ。
しかし、医者の家で一夜を過ごした時、この五十年配の男が、本質はウケではないかと思った。昌平を抱きながら、大輔の大きさをしきりに聞いてくるのだ。そのときの医者の目は、恋する乙女のように艶めいていた。
「へーえ、あの先生が俺になあ――」
医者に惚れられていると聞いて、大輔はまんざらでもない顔つきをした。
その顔を見ながら、昌平は言おうかどうしようか迷っていた。
あの晩、医者は、昌平の後ろで昇り詰めることが出来ず、最後は自らの手で扱きだした。そのとき医者は、なんとも太い張型を取り出して、それを後ろに入れてくれと言ったのだ。
しかもやってみると、すんなりと入った。よほど愛用している証拠だ。
そんなことをダイちゃんに言おうものなら、さっそく先生の後ろを試しに行こうとするのは、目に見えている。
そこで話題を変えた。
「ダイちゃんこそ、昇さんはどうだったの?」
「なんのことだ?」
「わしが先生のところから朝帰りした日、昇さんを抱いただろう?」
「あれっ、気づいてたの?あれは口止めのためだ。どこかの爺さんが医者の家から朝帰りしたのを、ノンちゃんに目撃されたからな。ノンちゃんがどこで言いふらすか、知れたもんじゃない」
「底の浅い言訳だな。昇さんは口が堅いから、そんなこと言わないよ。でもいいや、少なくとも、この家に昇さんを引っ張り込んだ訳じゃないんだから」
「昌ちゃん、その話はもう勘弁してくれよ」
今でこそ二人は、相棒がほかの男と寝ても、それを受け入れる包容力があるが、最初のうちはそうではなかった。
とくに昌平は、愛人関係にあった男を振ってまで、大輔のもとに来たのだ。大輔に注ぐ彼の愛情は、並々ならぬものがあった。
ところが根っからの浮気者、大輔のほうは違った。彼は昌平と同棲生活を始めたのちも、ときどき他の老人をつまみ食いした。
もちろん大輔とて、昌平に悪い事をしていると思っている。しかし彼は、あまりにも精が強すぎた。きれいな肌をした好みの年寄りを見ると、つい、ちょっかいを出してみたくなるのだ。
ふたりにとって最大の危機は、昌平が法事で里帰りしたときだった。
二泊の予定だったが、早く大輔に会いたくなって、一日予定を早めて家に戻った。
胸躍らせて玄関のドアを開けた昌平は、客の靴があるのに気付いた。それにしては、家の中が妙に静かだった。居間に行っても誰もいなかった。
そのとき、奥のほうから、かすかに声が聞こえてきた。大輔の寝室からだった。
そっと近づくと、ドアのすきまから聞きなれた声が聞こえてきた。
「――ささ、四つん這いになって、お尻を見せてごらん」
「こんな昼間から――なんか恥ずかしい」
「恥ずかしがる年か――そうら、もっと足を開いて――」
「――ねえ、ダイちゃん。カーテンを閉めてよ」
「カーテンを閉めたら、ノンちゃんの可愛らしいお尻が見えなくなるじゃないか。ささ、お尻をあげて――うん、相変わらずきれいな菊の門だ」
「ああっ!くすぐったい――」
「じゃあ、舐めなめしてやる――」
「ひっ!いいぃぃ――」
これにはさすがの昌平も頭にきた。自分の留守中、よりによって他の男を、自分たちの愛の巣に連れ込むなんて。
彼はUターンすると、足音荒く家を出て行った。
その後一週間ほど、昌平は戻らなかった。
さすがの大輔も、反省していた。
あのときドアの外の物音で、昌平に浮気現場を見られたのは確実だった。そしていなくなって初めて、相棒のいない生活がいかに味気ないか、心底痛感した。
大輔の落ち込みようは激しく、食事もろくに喉を通らないほどだった。
ある晩、しょんぼりとして仕事から戻った大輔は、家の中がきれいに片づけられているのに気づいた。しかも洗面所に雑然と脱ぎ捨てられていた下着類が、洗濯されて棚にきちんと折り畳まれている。
こみあげてくる嬉しさを抑えて、大輔は昌平の姿を捜した。そしてようやく、自室のベッドで寝ている昌平を見つけた。
「昌ちゃん、戻ってきたんだね」
大輔は息弾ませて、声をかけた。
昌平は拗ねたように、タヌキ寝入りを続けた。家には戻ったが、そう簡単に大輔を許す気にはなれなかった。
大輔はベッドの端に腰を下ろすと、密やかに息づく毛布の膨らみを撫でた。
「昌ちゃん、寝てるの?」
「ううん――なに?」
向こうむきに横たわったまま、昌平が眠そうな声で言った。
「ふむ、まんざらタヌキ寝入りでもないか――」
独り言のようにつぶやくと、大輔は服を脱ぎ、昌平の布団にもぐり込んだ。「ささ、久しぶりのスキンシップを楽しもうよ」
「だめ――眠いんだから」
「すぐに目が覚めるよ。さあ、顔を見せておくれ」
大輔は背後から昌平の体を抱きしめ、相手の首筋に唇を押し付けた。
「やめて。その気にならないんだから――」
昌平が身悶えして、抱擁から逃れようとした。
それにお構いなく、大輔が体をまさぐりだした。大きな手が胸にもぐりこみ、乳首を指の腹で刺激する。その手がさらに下に這いおりてくる。
「眠いからやめてってば――」
昌平は抗議したが、感じるところをあちこち触られて、体の芯が疼いてきた。
「どうだ、ここは――このやきもち焼きの、拗ねっこ爺さんが――。だけど大好きだよ、昌ちゃん。ほら、ここが疼いているんだろ」
耳元でとりとめのない睦言をつぶやきながら、大輔の手がねちっこく動いた。
昌平は、宙に漂っているような気分になった。
ダイちゃんが彼の浴衣を脱がせ、それからフンドシを解いたのを、夢うつつに感じた。肌と肌がじかに触れ合い、ダイちゃんがいつになく昂ぶっているのが分かる。
そのうちダイちゃんが、舌を使い出した。
「あっ、だめっ!だめだってば、そんなこと――」
昌平が喘ぎ、身を捩じらせた。
「うん、いいじゃないか――ほれ、早く嵌めてくださいって、菊の御門がヒクヒクしているぞ――どうれ、ご期待に応えて嵌めてやるか」
大輔が昌平の尻を抱え込んだときも、昌平はまだ許す気になっていなかった。
しかし、大輔が信じられないような逞しさで入ってきたとき、昌平の反抗心は吹っ飛んでしまった。
彼は波に漂い、うねりながら、大輔に抱かれる幸せを、しみじみと味わっていた。
気の遠くなるような甘美な行為が終わったとき、体の節々がヒリヒリとしていた。
「どうだ、おれの野生の雄たけびは」
大輔が、昌平の顔を覗きこんで言った。
「やっぱりダイちゃんは――」
昌平は、けだるそうにつぶやいた。「ほんとにどうしょうもない、スケ平オヤジだよ」
それで一件落着だったが、それ以後、大輔は肝に銘じていた。――浮気をするときは、決して男を家に引っ張り込まないと。