目 次
■ 大輔と昌平 - 第二話 奥日光の出会い
第二話 奥日光の出会い

(1)

大輔と昌平が同棲を始めて、十七年が経つ。
ふたりの住まいは一戸建てだが、二十五坪ほどの小さな平屋である。しかも築四十年の古さで、建て付けやらなにやら、あちこちにガタがきている。
その住人も、一緒に生活を始めた頃は精力に満ち溢れていたが、今や六十二歳と七十六歳の老人カップルである。
大輔は百七十六センチ九十キロの堂々たる体格をして、六十歳を過ぎた今でも毎晩、肉体の交わりが出来るほどの、超絶倫男である。
肉のついた顔は非常に血色が良く、短い眉毛と悪戯っ子のように輝く目、やや小さめの口と二重になりかけた顎をしている。そして何よりも、顔のど真ん中にデンと腰を据える鼻梁の太い獅子鼻が、彼の本質を端的に物語っている。
彼の裸体は、オリーブ油を塗り込めたような艶があり、精力絶倫のトドを想わせる。その股間では、思わず息を呑む立派な性器――幅も厚みも長さもボリュームたっぷりで、平常時でも肉のぴっちりと詰まった弾力があり、茶褐色に艶光りしている。
しかもカリの形状たるや、握りしめた拳のようにギンと張り詰め、ドキッとするほどエラの盛り上がった、肉感的な代物である。

いっぽう昌平は、フケ好きなら誰しも涎を垂らしそうな、見るからに可愛らしいお爺ちゃんである。百六十二センチ七十キロ、色白のふっくらとした肉体をしている。
頭髪はすっかり薄くなって、丸っこいおでこと薄墨を刷いたような眉毛、色素の薄い瞳がハッとするほどの優しさをたたえている。
しかし、何と言っても彼の最大の魅力は、肌の美しさである。目を惹く色の白さで、非常にきめが細かく、直に触れれば吸いつくようにしっとりとした肌触りである。
その美しい肌とふっくらとした肉体が相俟って、彼の裸体を見た者は、思わず押し倒したくなるような劣情にとらわれる。

ふたりが出会ったのは、栃木日光の奥地に点在する温泉宿だった。
この宿に、大輔はひとりで泊まっていた。――と言うよりも、懇ろになった爺さまと一緒に来ていたのだが、相手に急用ができて、ひとり取り残された格好だった。
大輔は、岩組みの露天風呂にのんびりと浸かって、山のいで湯ならではの醍醐味を、満喫していた。
竹樋から清澄な湯が滔々と注ぎ込まれ、周りはブナの原生林。湯船の下のほうからは、水の流れる沢の音が聞こえてくる。
(そろそろ体を洗うか――)
大輔は内湯に向かった。

桧造りの内湯は薄暗く、なにやら秘密めいた雰囲気があった。
数人の男たちが、ひっそりと湯に浸かったり、洗い場で体を洗ったりしている。大輔はその中のひとりに目をとめた。
年の頃六十歳、小柄だがふっくらとした肉体の初老男だった。特に尻の形がよかった。ぽってりと肉が付いて、程よい張りを感じさせる。それに薄闇でも目を引く色の白さだ。
その男が昌平だった。
昌平には連れがいた。年長の小柄な男。鼻髭を生やして、股間にはカリ高の立派な男の根をぶら下げている。
ふたりは洗い場に腰掛け、昌平が背後から寄り添うように、年長者の背中を流しだした。
大輔は即座に、ふたりが男色関係にあると睨んだ。彼はふたりの横に行くと、わざと相手の目に入るように立ち止った。
昌平が横を見て、温和な目が驚いたように広がる。その視線が股間で凝固した。ついで、おずおずと顔を上げて相手の顔を確かめる。
大輔が微笑みかけると、昌平はかすかに頭を下げて、恥ずかしそうに目を伏せた。
そのウブな仕草に、大輔の好き心が騒いだ。

夕食の後、大輔は、食堂にいる小柄な二人連れに接近した。
「あのう、森さんじゃないですか」
もちろん、口から出まかせだった。タイプの老人を口説く常套手段だ。
案の定、相手が否定すると、大輔は次の作戦に出た。
「これは、失礼しました。昔お世話になった方に、よく似ていらっしゃるものですから」
大輔は、人懐っこい笑みを浮かべた。そのあと厚かましくも、ふたりの前の席に陣取って、仲間に加わった。
会話の中で大輔は、それとなく自分が男好き、それもフケ好きであることを匂わせた。
そして最後に、昌平の目をまっすぐ見ながら、さりげなく言った。
「どうでしょう、厚かましいお願いだとは思いますが、あなたのお時間を少々私に貸してもらえませんか」
大輔は、同意を求めるように、連れの老人を見た。
回りくどい言い方だが、「あんたの相棒をちょっと貸してくれ」と言うのだから、なんとも厚かましいお願いである。
しかし、普通なら即座に怒りだしそうなものだが、髭の老人はいかにも紳士だった。
彼は真意を探るように、大輔の顔を眺め、ついで(どうする?)と聞くように、昌平の顔を見た。
昌平はとまどった表情を見せたが、頬が赤く染まっている。彼の脳裏には、浴場で目にした男の太魔羅がしっかりと焼き付いていた。しかもその男は、顔も体つきも声も、心に描いた理想とするような男だったのだ。
それでも昌平は、律儀だった。とても愛人を裏切るようなことはできない。彼は頬を染めながら、小さな声で言った。
「あいにく今日は疲れました。部屋に戻って休みます。ごめんなさい」

初老男にふられた大輔は、部屋に戻って退屈しのぎにテレビを見た。下腹部は欲求不満のかたまりとなっていた。それを忘れようと酒を飲んだ。
そのうち、ウトウトしだした。
目が覚めたのは、夜の十一時過ぎだった。フンドシの白い布地を突き上げて、男の根が隆起している。
その当時、彼は男盛りの四十五歳。一度燃え上がった欲情は、精を抜かないことには鎮まりようがなかった。
大輔は苦笑すると、前を大きく膨らませたまま浴場に向かった。ひょっとしたら、可愛らしい爺さんでも見つかるかも知れない。そんな淡い期待を抱いていた。

いっぽう、部屋に戻って愛人としっぽり濡れた昌平は、なかなか寝付けなかった。
久し振りの射精で満足しきった相方は、かすかに髭を震わせて、鼾をかきながら寝入っている。
その寝顔を見ながら昌平は、風呂で出会った男を思い浮かべていた。大きな体と大きな性器――。いたずら坊主のような笑顔を見たとき、昌平は言いようのない胸のときめきを覚えていた。
あの男に抱かれてみたい――その想いは圧倒的だった。彼は布団から抜け出ると、タオルを持って浴場に向かった。

深夜の浴場は、誰も入っていなかった。
大輔は落胆したが、気を取り直して露天風呂に行った。
紺碧の空に月が出ていた。夜気はひんやりとして、火照った肌に心地よかった。
そのとき薄明かりの中、湯煙越しに、白い肉体が浮かび上がった。現れたのは、彼がひと目惚れした老人だった。
とたんに、心臓が早鐘を打ち出した。
老人も大輔の顔を認めて、一瞬ハッとした表情を浮かべた。老人はそのまま前を通り過ぎて、向かいの縁石に手をつき、下の渓流を覗き込んだ。
老人の後ろ姿――小腰を屈め、プルンとした白い尻が大きく横に張っている。見ようによっては、誘っているようにもとれる。
大輔は湯の中で、のっそりと立ち上がった。

申し合わせたわけでもないのに、夜の露天風呂で再び出会うとは――。
昌平は胸をときめかせながらも、運命を感じていた。そして男の近寄る水音に、思い切って背後を振り返った。
とたん、心臓が跳ね上がった。
満々と肉をたたえた大きな体。その中心部で一段と肉感的な男根が、ギンと屹立していた。
昌平は目を逸らせようとしたが、どうしても見入ってしまう。
大輔は近寄り、無言で昌平の体を抱きすくめた。
そして唇を吸った。とろけるような軟らかさだった。
口を吸いながら老人の手を掴み、有無を言わさず、己が屹立した肉根を握らせた。
めくるめく陶酔の中で昌平は、これまで意識下で求めていたものが何であったのかを理解した。――大いなる父性、大いなる逞しさ、大いなる包容力だった。
部屋で寝ている愛人のことは、彼の脳裏からすっかり消え失せていた。
[17/06/15 20:09 神亀]
前のページへ
次のページへ