目 次
■ 尾瀬行 - 第3章 尾瀬の夜は更けて
第3章 尾瀬の夜は更けて

(1)

二人は風呂から上がると、客が引き上げたあとの食堂で、遅い夕飯を食べた。
そのあと部屋に戻って、自販機で買った缶酎ハイを飲んだ。
狭いスペースしかないので、ベッドの縁に並んで腰掛け、他愛もない会話をした。
すぐそばにいる部長の大きな体の存在感に、洋平はうっとりとしていた。時折、腕や足が触れ合い、温もりまでも伝わってくる。
洋平は、大きな体にしがみつきたくなる劣情を、必死に抑えていた。
そんな洋平の想いに気付かず、茂はのんびりと話している。そして、酎ハイを飲み終わったところでトイレに行った。
茂は部屋に戻ってくると、大きく伸びをしながら言った。
「ああ、いい気分になった。先に寝ますよ」
彼は服を脱ぎ、下着姿になるとベッドにもぐりこんだ。
まもなく健やかないびきが聞こえてきた。

残された洋平は、部長の寝顔を見ながら、心は複雑に揺れ動いた。
(ああ、これから部長と同じベッドで寝るのだ――)
夢でも見ているようだった。風呂で目にした、部長の裸がよみがえった。大きな胸、形よく膨らんだ腹、そして――大きな体に比例した図太いチンポ。
今思い出すだけでも、体が震えてくる。
(もしも部長が目を覚まして、迫ってきたら――)
そんなことは、あり得ないことだったが、彼は想像した。
しばらく部長の寝顔を見続けたあと、毎晩寝る前の習慣になっている、儀式を行うことにした。彼はリュックサックに忍ばせていた直腸洗浄器と潤滑油を取り出すと、トイレに向かった。

(2)

――茂は夢を見ていた。
夢の中で、妻と同衾していた。久しぶりだったので、自分がいつになく昂ぶっているのがわかる。妻の小柄な体を背後から抱きしめ、悩ましげに腰を押しつける。弾力のある尻が受け止め、くわえ込むように開く。
(――ん、何かおかしい?)
じょじょに現実の世界に戻ってきて、彼はあわてた。なんと、飯田老人の体を、背後から抱きしめていたのだ。
茂はあわてて老人の体から離れた。
離れた後も、性の疼きは治まらなかった。
(仕方がない、トイレで鎮めてこよう――)
彼は老人の体を乗り越えて、ベッドから抜け出ようとした。

そのとき、老人が寝返りをうって、目を開けた。ふたりの顔は20センチと離れていなかった。目と目が合って、お互いの息遣いが顔に当たった。
時間が凝固した。
茂は瞬時に悟った――自分に対する飯田老人の想いを。
むろん、今までにも、それらしき徴候には気づいていた。しかし、まさかという気持ちのほうが強かった。いま、目の前にある老人の顔は、恋する人の顔だった。
熱っぽく潤んだ瞳。
すこし怯えているようだ。――まるで親犬からはぐれた子犬のように。
後で考えても、どうして自分がそんな行動をとったのか分からない。
茂は衝動的に、老人の体を抱きしめていた。
飯田老人が甘いため息をついて、しがみついてきた。温かく柔らかい肉体の感触が、茂を急激に昂らせた。

(3)

木原茂は、その世界について全くの無知ではなかった。男同士でも愛し合えることは知っていた。
しかし、愛し方については無知だった。ただ裸になって、相手の小さな体を腕の中に抱きしめ、やわらかい肌を愛撫するだけだった。
最初のうち洋平も、部長の大きな体の中に包まれて、切なそうに体を震わせていた。
やがて、洋平がリードしだした。
経験者の彼は、どうすればいいか十分に知っていた。
夢にまで見た部長の、太くて逞しい男のお道具を直に触れ、直に吸いついて、うっとりとしながらも、夢ではないかと何度も確かめた。
ちゅぽっ、じゅぶぶ、ぬちゃあ――洋平の口の動きにつれて、湿った音がした。
老人の手と口によるしたたかなテクニックに、茂は喜悦のうめき声をあげ、若者のように昂ぶった。こんなことは死んだ女房でさえ、一度もしてくれたことがなかった。

やがて、老人が尻を開いて受け入れ体勢をとったとき、経験がなくてもどうやるのか、茂には分かっていた。
狂おしいほどの劣情に、彼は勃起した男根を老人の肛門にあてがい、性急に突き入れようとした。
しかし、なかなか入らなかった。
洋平は夜毎、張り形を愛用していたし、今夜もトイレで体内を洗浄し、潤滑油も塗りこんで、準備万端のはずだった。
しかし部長の性器は、張り形よりもはるかに太かった。
部長の不慣れな動きにもどかしさを覚えながら、洋平はなんとしてでも相手を受け入れたかった。そのためには、自分が傷ついてもいいとさえ思っていた。

そしてついに、洋平の願いはかなった。
不意に亀頭部がずるりと入った。
「うわっ!ああぁー」
洋平は苦痛のうめき声をあげ、おもわず尻を引こうとしたが、ぐっと我慢した。
苦痛よりも、部長を慕う気持ちのほうが強かった。彼は思い切って尻を後ろに突き出し、再びうめき声をあげた。
ぐにゅう、ぬぶぶう――。
湿った摩擦音を伴って、太い肉杭が体内深く入ってくる。
洋平はシーツにしがみついて、苦痛に耐えながらも、女にされた悦びに浸っていた。

根元まで完全に没入したとき、茂は信じられないほどの充足感を覚えた。老人の肉の管は、彼の陰茎を寸分の隙間なく押し包んでいた。
腸壁を通じて、温かい息吹が浸透してくる――。
茂は、老人の体内に深々と差し込んだまま、しばらく動かなかった。
それからゆっくりと、抜き差ししだした。
ぬちゅう、ちゅぼっ、ちゅく、ちゅく――。
動きの変化に合わせて、湿った音も変化する。
「あはあ――あっ、いいい――」
洋平が控えめに善がり声をあげだした。

次に体位を変えて、お互いの顔を見ながら繋がった。
深々と結合したまま、ふたりの心が絡まった。
黙っていても理解し合えた。
これまで物足りなかったものがなんであるか、その答えがこの瞬間にあり、お互いが深い絆で結ばれていることを実感した。
茂は、老人の体内に深く突き入れたまま、上体を倒して唇を重ねた。
洋平が嬉しそうに喘いで、舌をからませた。
ちゅぶっ、にゅぼっ、じゅぶう――。
粘膜のねじれ合う音や唾液を吸う音が、複雑に絡み合った。

やがて――茂が本格的に動き出した。
「はあー、ふうー、うおお――」
「ああっ、いい、いいぃ――」
きれぎれの吐息に、甘い善がり声が絡まった。ふたりの愛の交歓は、じょじょに熱気を帯びてきて、めくるめく歓喜の世界へと入り込んでいく――。
そして尾瀬の夜は更けていった。
                                  おしまい
[21/06/05 17:45 神亀]
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