(2)
紳一が木原酒造に入って最初にやったのは、会社の所有する施設の視察だった。
その案内役は、総務の福井次長が担当した。神戸本社と醸造施設、そして六甲山の反対側にある酒米の耕作地。そこでは独自開発した『木原米』を作っていた。そのあとふたりは、札幌から福岡にかけての全国10営業所を、一週間かけて歩きまわった。
紳一は、木原酒造のほぼ全容を把握することができた。木原酒造は、世界的なコングロマリットのフジモリグループに属していたが、グループ主流の藤森家の経営する企業群とは一線を画していた。
もともと木原酒造は、江戸時代の造り酒屋からスタートして、独自の道を歩んでいたところ、紳一の祖父にあたる木原宗一郎が藤森家の長女を娶った縁で、フジモリグループに参入したのだ。
紳一を案内した福井は、子供っぽい見かけに反して、頭の切れる男だった。彼は会社施設だけでなく、醸造から営業・総務全般にわたって、よく知っていた。
身長160センチそこそこの小太りぎみの男で、自分の肉体的劣勢をスポーツで補おうとしているようだ。顔も腕も小麦色に日焼けして、42歳の年齢にしては、10歳は若く見えるような服装をしている。
額に垂らした髪は黒いが、将来のハゲを予感させる髪質だ。現に頭頂部はかなり薄くなっている。おそらくあと10年もすれば、下腹のふくれたハゲのおっさんになるだろう。それに、髭のない滑らかな頬や柔らかそうなオチョボ口は、日焼けしているにも関わらず、どことなく幼児がそのまま大きくなったような、ひ弱さがある。おそらく両親に、大事に育てられてきたのだろう。
紳一はこの男を見ていると、どうしてもちょっと可愛がってみたくなる。
最後の訪問地、福岡での視察もおわって、ふたりはホテルに戻った。明日はようやく神戸に戻れるということもあって、福井はいつになく明るい表情をしていた。
フロントで部屋のキーを受け取ると、紳一は福井に言った。
「これでやっと終わったな。ありがとう、福井さん。おかげで会社の状況もよくわかりました」
「いえ、とんでもないです――」
若い部長の直截な感謝の言葉に、福井はどぎまぎした。
「ところで、1週間分も溜まってるでしょう。今夜はひとつ、すっきりとしませんか」
「――?」
「そこに溜まってるものを吐き出すんですよ」
そう言いながら、紳一は相手のズボンの前を見やった。
彼の視線に気づき、福井は思わずあとずさった。
「い、いえ――わたしは遠慮します」
「そう――」
紳一はあっさりうなずくと、エレベーターに向かった。
福井があわてて後につづいた。
箱の中で、紳一は相手の腰にそっと片手を添えた。ごつい手が、でっぷりしたズボンの後ろを撫でだした。福井はごくりと唾を呑み込んだが、じっと我慢していた。
エレベーターが目的階に着いたとき、紳一は福井の耳元でささやいた。
「やっぱり今夜は付き合って欲しいな。ぼくの部屋に来てよ」
紳一は強引に、福井を自分の部屋に引っ張り込んだ。
有無を言わさず裸に剥くと、想像通りの欲望をそそる肉体をしていた。福井は必死に抵抗したが、大人と子供ほどの体力差があった。
あとは落花狼藉のシーンが展開した。
最後に肉付きの良い体を組み敷いて、むっちりと肉の詰まった尻を押し開いたとき、紳一は急激に昂ぶった。
「よしっ、嵌めてやる。力を抜け」
紳一は膝立ちになって、中心部にあてがい、じんわりと力を加えた。
「あっ、待って!うわあっ――あああっ!」
福井が悲鳴を上げ、小太りの白い肢体をうねらせた。
40歳を過ぎて独身だったので、男を知っているかと思ったが、意外にも初めてだった。しかし、今さら止められない。いったん燃え上がった欲望は、行き着くところまで行かなければ、鎮めようがなかった。
「福井さん、ほんの先っぽだけ入れるから。ささ、力を抜いて。さあ――力を抜けって言っただろうがっ!」
紳一は、苦痛にのたうつ福井を、なだめすかしながら犯した。
そして福井にとっての初夜は、なんとも生きた心地のしない、苦痛の連続だった。
(くうっ、この締め付けが何とも言えん!)
紳一は肉杭を打ち込みながら無意識に、これまでに抱いた男たちと比較していた。大半が白人系の年寄りだった。彼らは毛深いのが多いし、尻穴も弛んでいるのが多い。それに比べると、最近味わった植田やいま抱いている福井は、体毛が薄くて肌もきれいだ。それに菊穴も締まりが良くて、吸い付くような感触だ。
(やっぱり、米を食ってる日本人は、最高だな――)
彼は気持ち良さそうに腰をうねらせながら、そんなことを考えていた。

「ふん、結構真面目だったんやな。それで、使えそうか?」
福井次長は、出張旅行での木原部長の行動を報告していた。聞き手は社長と専務だったので、少し緊張していた。
「それはもちろん――明るくて、行動的なかたです」
「社交辞令を聞いてるんやない!部長に気を使わんと、きみの感じたことを正直に話せ!」
大園専務に一喝されて、福井はすくみあがった。
「あの方の性格は、分かり難いところがありまして、そのう――なにか茫洋として、私の説明を聞いていないようで、それでいて意外にも全てを覚えておられて――それに、ちょっと気まぐれなところがあります。でも、とても行動的な方です。思い立ったらすぐ行動に移すような」
話しながら福井は、福岡のホテルのことを思い出していた。思うだけで、顔が赤らんだ。あんなことは、とても報告できない。まさか女のように犯されたなんてことは――。
「福井、おまえ、まだ何か隠してることがあるんやないか?」
大園専務が、疑い深そうに福井の顔を見た。
「い、いえ、そんなことは――」
福井はあわてて否定した。
それまで黙って聞いていた社長が、初めて口を開いた。
「仕事の方はどうなんだ。新しい部長に、まかせられるのか?」
「まだなんとも言えません」
思わず口をついて出た言葉に、福井は小さくなった。「いや、つまりその、木原部長には、もうすこし仕事に慣れてもらってからと思いまして。施設管理の実務は植田課長がやりますし、総合的なご判断は、真山取締役がされますから――」
「ふん、真山がいなくても、きみがいれば大丈夫やろうが。総務部を実質的に仕切っているのは、きみやからな」
そこで大園は、福井の言葉を独自に解釈して言った。「で、きみの話を要約すると、木原部長は散文的だが記憶力はいいほう。気まぐれですぐ動き出すような直情傾向があるんで、仕事を任せるのは不安がある。そういうことやな」
「――そ、そうです」
専務に鋭い目でにらまれて、福井は思わず返事をした。しまった、と思ったとたん、専務がにんまりとほくそ笑むのを目にして、彼はホッと胸をなで下ろした。
部屋に戻ったとき、福井は天にものぼる思いだった。社長も専務も、彼だけを頼りにしている。そしてふたりとも、新任の部長には、あまり期待をかけていない。いやむしろ、お荷物のように考えている節も見られる。
とすると、あの部長が木原一族の直系という噂は本当のことだな。それも、できの悪いやっかい者と見られているんだろう。
部屋を見渡すと、当の七光り部長が、真山取締役となにやら話をしていた。そのとき、新任の部長が頭を巡らせ、福井に向かって脳天気に笑いかけた。福井は優越感を持って、ゆったりと笑みを返した。
「おとうちゃん、いい手がきたな。ほっぺたが緩んでるぞ」
紳一に、おとうちゃんと呼ばれた笠原は、人のいい笑顔を浮かべた。
「何をおっしゃいます。部長こそ、てんぱってるんやないでっか」
「ばれたか。おい、親ちゃん、早くいけよ」
後藤がおずおずと手元から牌をきった。
「ロン!」
笠原が無邪気な声を上げて、手牌を倒した。「満貫!」
木原酒造には、賭け事が好きな連中がそろっていた。ときおり彼らは仕事の終わったあと、ささやかなギャンブルに興じた。紳一はすぐその輪に溶け込んでいった。
従業員たちは紳一よりはるかに年上だったが、形式張らず、穏やかで人懐っこかった。いつのまにか、紳一と彼らの間では、主従の関係ができあがっていた。それも役職からくる形式的なものではなく、信頼感と好意が、自然ににじみ出てくるような関係だった。
紳一は、とくにつきあいの深い連中には、ニックネームをつけていた。いちばん年長の笠原は『おとうちゃん』、植田課長は『マロ』、これは植田が浮世絵並みの持ち物をしているということで名づけた。若い杜氏の後藤は――と言っても53歳だが――親平という名前をそのままとって『親ちゃん』と呼んでいた。そして本人の前では面と向かって言わないが、真山取締役は『神父』、福井次長は『フグ』だった。
紳一は、植田課長や福井次長と関係を結んだあと、こんどは杜氏の笠原に接近した。笠原は、先代社長のお手つきだったので、ことは簡単だった。
老人はホテルの部屋に連れて行かれたとき、抱かれる前に体を清めてきますと言って、自らバスルームに入った。そして文字通り、産まれたての赤ん坊のように身ぎれいになって、浴室から出てきた。
笠原は年季が入っているだけあって、うまかった。どうやら彼は、先代社長の亡きあと、配下の若い蔵人の何人かを、セックスフレンドにしてきたようだ。
老人の小さな口や舌、肉厚の肛門括約筋の総動員で、紳一は急上昇した。植田や福井よりずっと年長なのに、締まりが良かった。太い陰茎をくわえ込んで、自由自在に締め付ける。
「うおっ、いい――おとうちゃんの穴芸は最高だな」
駅弁スタイルで笠原を腰に乗せ、紳一は息を弾ませた。彼の褒め言葉に、老人が菊門を何度も締め付けて応える。
「おおっ!いいぞ――よし、今度はおれがサービスする番だ」
紳一は繋がったまま立ち上がって、部屋の中を歩き回った。歩くにつれ、直腸内にはめ込まれた亀頭が位置を変えて、微妙な動きをした。
あまりの快感に、笠原が紳一にしがみついて、すすり泣いた。
「いいか、お父ちゃん。それっ、これはどうだっ!」
弾みをつけて、老人の体を上下に揺すった。陰茎が老人の管から半分ほど抜け出て、ついで勢いをつけて根元まで填まる。
「うわっ!あわわ――」
笠原の泣き声が大きくなる。そのあと紳一は、老人の丸っこい体をベッドの上に降ろすと、本格的に責めだした。