目 次
■ 血の絆(中編) - (3)
(3)

鬱蒼と樹木の生い茂る屋敷に、黒塗りの大型車が乗り入れた。年配の男は車から出ると、お供の若い男の先導で、屋敷の玄関口に向かった。
男は背が低い分、でっぷりと太っていた。半白の頭髪を短く切り詰め、幅広の顔は脂ぎって、艶やかな血色をしていた。目の周囲にただよう微妙なきつさがなかったら、金持ち道楽にうつつをぬかす、気ままな生活を思わせただろう。
高価なスーツで身を包んだ男は、1階のロビーにたむろする男たちに近寄った。太った男特有の、よたよたした足取りだが、その態度は尊大そのものだった。
「記者を捕まえたって?」
「はい、先生。上の部屋で縛り上げています」
「どんな男だ」
「小柄な中年男です。見た目、初心っぽい上玉ですぜ」
答える男はニヤッとした。先生の好みのタイプを知っているからだ。
「そうか」
男は相手をじろりとにらんだ。「手をつけていないだろうな?」
「とんでもありません」
「そうか。わしはちょっとその記者の相手をしてこよう」
男は2階を見上げてほくそ笑んだ。

若林博見は、両手をベッドの格子に縛りつけられ、仰向けに横たわっていた。着ている衣服はシャツと小さなパンツ一枚。クロロホルムをかがされた余韻がまだ残っていて、頭の芯がズキズキしていた。
そのとき、部屋の外で足音がして、ドアが開いた。
博見は目を閉じて、眠っている振りをした。誰かがベッドのそばに近づいてきて、じっと見ている気配に、彼は薄目を開けた。
年配の太った男――テレビや新聞で見た顔、国会議員の梶岡だ。
博見はなぜか鳥肌が立つような思いがした。高価な仕立ての服を着ていても、男には冷酷で好色そうな雰囲気があった。
男の小さな目が、博見の全身を舐めるように見回した。
(ああ、やめてくれ!)
博見は心のなかで叫んだ。この男はヤル気なのだ。
悪い予感はあたった。梶岡は上着を脱ぐと、ゆうゆうとズボンのベルトをゆるめだした。
「やめてくれ――頭が痛いんだ」
博見は力なくささやいた。
国会議員は、そのでっぷりとした体をベッドへ近づけながら、シャツのボタンを外し、素早く脱ぎ捨てた。
博見は哀願した。
「やめてくれ。お前たちは何が目的なんだ。これは犯罪だぞ」
しかし、梶岡は残りの衣類を脱ぎながら、ほくそ笑んで言った。
「怖がらなくていい。初めてじゃないだろう」
「やめてくれ!――そんな気にならないんだ」
「まあ、そういうな。お前、男が好きなんだろ」

裸の男はでっぷりと肥って、トドのような脂ぎった精力を感じさせる肉体だった。たっぷりと肉のついた腹の下、茂みの中から、欲望に膨らんだ性器が突き出ていた。体型その物の、ずんぐりむっくりしたシロモノだった。
ベッドがきしんで、片側が揺れて沈んだ。男がベッドに上がり込んだのだ。
博見は抗議の悲鳴を上げた。
「バカ、ぎゃあぎゃあ騒ぐな」
梶岡は平手で博見の頬を叩いた。それから横になって、太った体を押しつけてきた。
博見は力を振り絞って体を離そうとしたが、男は乳首を摘み、強く捩じった。博見が苦痛の呻き声をあげると、男はニヤリとした。小さな目が興奮からギラギラと輝いている。どうやらこの男は、人をいたぶって楽しむ趣味のようだ。
博見がおとなしくすると、ずんぐりとした手が体を這い回った。ついで、パンツの上から膨らみを、いやらしくまさぐった。
「ああっ、やめろ!」
博見は叫んだ。
梶岡は息を荒げ、下のほうで手を動かしていた。パンツがずりさげられ、太腿の付け根に冷たい空気が感じられた。
「ほほう、結構大きいじゃないか」
梶岡の野太い声。ついで性器の先端が、ヌメっとした温かいものに包まれた。男の慣れた口淫に、博見は不本意ながらも大きくした。
唾で濡らした指が、尻の狭間に潜り込んでくる。
「ああっ!やめて」
男根と肛門を同時に刺激されて、博見は思わず声を上げた。男に対するおぞましさとは裏腹に、ジクジクとした快感が沸き上がる。

男は、しばらく指と口を使って博見を翻弄したあと、くぐもった呻きごえを洩らして行動にでた。やおら、博見の両足を引き上げ、太った体でのしかかってきた。尻の狭間に肉根が押し当てられ、強引にねじ込もうとする。
「うわあっ!」
博見は苦痛の悲鳴を上げた。
尻をねじり、男の侵入を妨げようと、必死だった。だが梶岡は、体重を利して博見の体を押しひらき、強引に入ってきた。
豚のように重い肉体にのしかかられ、博見は完全に征服された。
男は目を閉じ、口をだらしなくあけて、休むことなく抽送運動を繰り返した。息を荒げて何やら訳の分からぬ言葉を吐きつづけていた。
「どうだ――いいか――うう、いい――よく締まる」
動きが速くなった。男の体がこわばり、射精のうずきを感じた。とつぜん、博見の内部に侵入したものが、なおのこと膨張した。
「う、う――ううふっ――」
梶岡が到達した。それと同時に、不潔な液体が、博見の内部を汚染した。ぞっとするような不快感だった。

国会議員はようやく身を引いて、ベッドから下りた。
博見の頬を、熱い涙が流れ落ちた。
「どうだった。よかっただろうが」
悠々とタオルで前を拭いながら、男は言った。
「豚!うす汚い豚野郎!」
博見は力なくののしった。
「なんとでも言うがいい。お前はこれから、たっぷりと何人もの男たちを味わうんだ。そうしたら、どれほどわしのモノがよかったか、思い出すだろう」
梶岡は身づくろいを整えると、部屋から出ていった。
まだヒリヒリとする男の痕跡が残っていた。博見をむりやり慰み者にした国会議員に対する怒り、一郎に対する悔悟の念、複雑な思いが彼の脳裏で入り乱れた。

――◇――

切れ長の目をした背の高い男は、刑務所の接見室に入ると、目的のブースにまっすぐ向かった。男は酷薄な印象を隠すように、縁なし眼鏡をかけていた。
強化ガラスの向こうでは、老人が座っていた。白髪白面、おだやかで洗練された顔つきをしていた。このご隠居然とした老人は、関東地区に隠然たる勢力をもつ、広域暴力団岩井組の岩井会長だった。
「どうだ?」
受話器の向こうで、老人は単刀直入に訊いた。
「予定通りです」
若い男は老人の目を見ながら、うやうやしく答えた。
「記者は?」
「先生の別荘に運びました。そのあと、先生が相手をしたようです」
老人はニヤリとした。
「先生も久しぶりにいい思いをしたことだろう。先生がその男に飽いたら、すべて吐かせて始末しろ。それで、退職したデカのほうはどうだ?」
「相変わらず、あちこちつつき回ってるようです」
老人は少し考えて、言った。
「デカには、少し心配事を増やしてやる必要がある。自閉症の息子がいると言ったな?」
「はい、デカと一緒に住んでいます」
「息子を預かって、たっぷりとかわいがってやれ。ただし、タマ(命)は取るなよ」
「分かりました」
若い男は、にんまりとした。
ふたりの会見は簡潔に終わった。若い男は受話器をフックにかけると、老人に向かって丁寧に一礼して立ち去った。
[18/01/25 07:44 閑名三爺]
前のページへ
次のページへ