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ファンタジー(第5部) - (2)
(2)

サキは馬にまたがって旅をしていた。ウトウトして、ときおり馬から落ちそうになって、あわてて馬の背中にしがみついた。股の下でモクモクと動く筋肉の動きが心地よかった。かすかに波の打ち寄せる音がした。海沿いの道――?
ふたたびウトウトしてきた。今度は子供に戻って、父親に抱かれていた。サキは精いっぱい脚を開いて、父親の大きなお腹を挟みつけた。
ふいに、股の間に何かがもぐり込んできた。
えっ、なにっ、お父さん?

そこで目が覚めた。
永い眠りから覚めたときのように、頭の芯が痛かった。
すぐ目の前に、男の顔があった。
ハーブ!一瞬、そう思った。
澄んだグレーの瞳が、いかにも優しそうだった。でも、微妙に違っていた。白かったハーブのあごひげに比べ、黒いものが混じって、ハーブよりいくぶん若く見えた。
サキは素っ裸だった。しかも胡坐をかいた男に抱かれていた。男は気持ち良さそうに、でっぷりと肥った体を揺すらせている。
男の腰にまたがったサキは、体の芯に違和感を覚えた。何か太い杭を打ち込まれたような――。下を見ると、ふたりの下腹部は溶接されたように、ぴっちりと密着していた。

状況を知ったサキは、パニックに陥った。
「いやっ!何するんだっ!放せっ!」
にわかに騒ぎ出したサキの迫力に、男は仰天してあわてて離れようとした。勢い余って支柱にぶつかり、上から屋根替わりの長い葉がバサバサと落ちてきた。
大きな尻をこちらに向けて慌てふためく男の姿は、サキの体にいやらしいことをしていたにも関わらず、どことなく愛嬌があった。

サキは近くにあった衣服を手早く身に着けると、周りの様子を見た。先端に長い葉を茂らせた、背の高い木が群立して生えている。砂浜に近く、その先は一面の大海原だった。
背後を振り返ると、切り立った崖が高く聳えていた。垂直に近く、よじ登るのは不可能に見えた。ここが大陸の一部なのか、それとも海の孤島なのか、見当がつかなかった。
男のほうを見ると、彼は後ろめたそうな顔をして、しきりに揉み手をしている。それからお詫び替わりと思ったのか、水の入った木の器と何かの大きな果実を持ってきた。
歳を取って大きな体をしている割には、素朴で、いかにも人が良さそうだ。
水は生温かったが、サキはゴクゴクと音を立てて飲んだ。
ひと息つくと、男に質問した。
「それで、あんたはいったい何者なんだ?」

男はサキより年下のような従順さで、サキに問われるまま、ぽつぽつと話し始めた。
名前はジジ、65歳の漁師である。6年ほど前、村の仲間たちとサメの怪物退治に海に出て、ぎゃくに返り討ちにあって海に投げ出された。
九死に一生を得た彼は、壊された船の残骸にしがみついて、ここまで流れ着いてきた。他にも生き残った仲間がふたりいる。
ここは周囲を海と高い岸壁で囲まれているので、どこにも行きようがなく、ずっとここに住み着いている。幸い岩から滲み出してくる真水があるし、木の実や海の豊富な魚介類で、生きていくには困らない。
「それで、ほかのふたりはどこにいるの」
サキの質問に、男はちょっと嫌そうな顔をして、「ふたりとは離れて暮らしている」と答えた。

つまり男が言うに、何ヶ月も女抜きで暮らしていると、男の精が溜まってくる。それで誰かが女代わりをしなければならないが、一番歳を喰ったジジが狙われると言う。
「あれはすごく痛い。やられているときは、生きた心地がしないんだ」
ジジはいかにも痛そうに、肉付きの良い顔をしかめた。
サキは聞いててあきれた。海洋族は精力旺盛で、性におおらかだと聞いていたが、まさか男のお尻を女代わりに使うとは。
そしてふと気づいた。なんやかんや言っても、この男だってひどい。
サキが意識を失っているのをいいことに、処女を奪ったのだ。それも自分の子供どころか、孫のようなサキに対して――。これはもう、けしからんを通り越して、生皮を剥いでも手ぬるいと思った。

そこでサキは、一番肝心のことを訊いた。
「それで、ぼくはどうしたんだ?」
変な聞き方だったが、ジジには通じたようだ。
「ああ、洞窟の奥の女神さまの前で見つけた。あんたは眠っていた」
「女神さまの前?なに、それ?」
「ああ――そのうち、連れて行ってあげる」
サキはハーブとユーミンがいないことを、不思議に思った。それで、ジジに訊いた。
「ぼくを見つけたとき、ほかに誰かいなかった?――そのう、あんたのような爺さんと父っちゃん坊やだけど」
ジジは怪訝そうに、サキの顔を見た。
「――あんたのほかに、誰もいなかったけど」
(彼らはどこにいったんだろう?)
洞窟にいなかったと言うことは、ほかの違う場所に飛んだとした考えられない。
サキは言った。
「で、ぼくを見つけて、どれくらい経つの?」
「今日で3日になる――」
「3日!ぼくはずっと眠ってたの?」
ジジが頷くのを見て、サキは考え込んだ。失われた時の国で、光に包まれて宙に浮かんだと思ったとたん、急流に呑み込まれたようだった。そして意識が戻った時は、ジジの大きな体に抱かれていた。

サキはキッとして、ジジの顔を睨みつけた。
「それであんた、眠ってるぼくの体に、さっきのような厭らしいこと、何回やったんだ!」
ジジはもじもじした。
「そのう――3回」
「3回も入れたのっ!」
サキが叫んで、ジジが慌てたようにしーっと口に指を立てた。
「声が大きい。彼らにあんたの声を聞かれたら、大変なことになる」
サキは少し声を落とした。
「あんた、恥ずかしくないの。ぼくは20歳だよ。45歳も年が離れているんだ」
ジジは面目なさそうに頭を掻いた。
「そんなつもりじゃなかった。でも眠っているあんたを清潔にしてやろうと体を拭いていたら、つい、ムラムラッとしてきて――。でも、中に出してないから、子供の出来る心配はいらんよ」
ジジは思い出したのか、股間の太短い逸物がムクムクと頭をもたげてきた。それに気づいたサキが、命令するように言った。
「いやらしい!早く服を着なさい!」

男があわてて服を身に着けると、サキはあらためて訊いた。
「それで、ぼくを裸にしたとき、気づいたんだね」
「何が?」
「そのう――ぼくが両方、持っているって」
「ああ」
ジジはこともなげに肯いた。「あんたは、ホーリー族だったんだな」
正確にはオリジン族だったが、それを言うとややこしいので、サキは否定しなかった。
「あんた、よくホーリー族を知ってたね」
「兄に教えてもらったんだ。わしの兄は村一番の物知りでね。そのハーブが言うに――」
サキはジジの話を遮って、性急に言った。
「ちょっと待って!あんたのお兄さんって、ミサキ村のハーブ?」
「ああ――そうだよ」
ジジは不思議そうに答えた。
(どうりでスケベな筈だ。あのハーブの弟なんだ)
そう思いながら、ハーブと旅をしていたことを、この素朴な年配者に話しだした。

ふたりは夜陰に乗じて洞窟に来ていた。入り口で、ジジが火打ち石を使って松明に火をつけた。
洞窟はさほど深くなかった。行き止まりは大きな空間になっていて、高さ2メートルほどの女性と思われる像が立っていた。不思議な材質で出来ていて、暗闇でもボーっと真珠色に浮かび上がっている。
ジジが床を指差して言った。
「ほら、この上にあんたは横たわっていたんだ」
見ると床に、あの不思議な幾何学模様がある。
(さあて、今度はどこに行くのかな?)
サキは胸元から、金のペンダントを取り出しながら考えた。そこでふと、ジジの姿を見て、連れて行くかどうか迷った。
断りもなく、彼の体を快楽の道具に使ったのは許せなかった。でも、精力旺盛な海洋族の男だから、ジジに悪気は無かったのかもしれない。それに、髭に包まれた赤ら顔や澄んだグレーの瞳は、純朴で、憎めない性格を思わせた。見ようによっては、背が低くずんぐりした体形も、愛嬌があって可愛らしい。
(ま、いいか。ぼくと結ばれた小父さんだ。丈夫で長持ちなら、使いようがある。それになんたって、ハーブの弟なんだから)

サキはジジに向かって言った。
「ねえ、ぼくと一緒に来る?」
ジジが無邪気にうなずいた。
年配者を見ながら、サキはふと考えた。一緒にいたハーブとユーミンが別のところに飛んだとすると、ジジも同じことが起こるかもしれない。
(もっとしっかりと繋がっていないと、いけないのかなあ)
サキは考えた。それにこの爺さんと繋がっていたとき、心ときめく不思議な快感を覚えていた。彼は心を決めて、ジジの股間を見ながら言った。
「ねえ、ジジ。いやらしいことする?」

気が付くと、ベッドの上にいた。それもフカフカしていい香りのする、豪華なベッドだ。
目の端に、女の姿が見えた。起き上がろうとすると、女があわてて押しとどめた。
「そのままで。いま、王さまをお呼びします」
「王さま?」
女が姿を消した後、サキは起き上がってまわりを見た。豪華な部屋だった。すぐ横のベッドに、ジジの恰幅の良い体が寝そべっていた。
サキはベッドから抜け出ると、ジジのところに近寄り、そっと体を揺すった。
ジジが目を覚ました。彼はギョッとしたように、まわりを見ている。
まもなく数人の人間がやってきた。
先頭の豆タンクのような可愛らしい老人が、口を開いた。
「わしはトマ王じゃ。おまえたちの話を聞かせてくれ」
王の横には3歳くらいの可愛らしい男の子がいた。男の子は好奇心いっぱいの目で、サキのほうを見ている。不思議な青い目をしていた。
サキはどういうわけか、ウータンの顔を思い浮かべた。
トマ王が嬉しそうな声で言った。
「わしの子供、ユーリー王子だ」
[18/11/13 06:33 閑名三爺]
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