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ファンタジー(第5部) - (2)
(2)

ユーミンが優しく話しかけた。
「ねえ、サキ、きみはこれまで、自分の生まれ故郷のことを話したことがないけど――さしつかえなければ話してくれない?」
サキは少し考えて、ぽつりぽつりと話し始めた。
「ぼくはどこで生まれたか知らない。物心ついたときは、あちこち旅をしていた。お父さんとお母さんは、マジックをやる旅芸人だったんだ。でもふたりとも、ぼくが7歳のときに死んじゃった。そのとき孤児のぼくを引き取ってくれたのが、町の親方だった――泥棒のね」
サキは、話すのが辛そうにうつむいた。
ユーミンとハーブは同情したが、黙って聞いていた。
「だから、ぼくの生まれ故郷がどこなのか知らない。でも、お城のあの部屋に行ったとき、何か見覚えがあるような気がしたんだ。ほら、あの奇妙な模様だよ」
彼は首につけていた金鎖を、胸もとから引っぱりだした。鎖の先端に、金貨のようなものがついていた。
「お父さんとお母さんが、ぼくに残してくれたのは、このペンダントだけ」
金貨の表面に、時の間にあった幾何学模様が刻まれていた。裏面には奇妙な文字があった。
「あれっ、それって――」
ユーミンが何か言いかけたとき、サキがあっけらかんと言った。
「いいよ、ぼくは失われた時の住人――の子孫ってことにしておいて。そんなことより、ウータンの言っていた、ドラゴンの炎を防ぐ楯って、ほんとにこの世界にあるの?」
ユーミンが考え込みながら言った。
「さあ、わからない。でもピザン寺院のお坊さんは、次元を超えた別世界、失われた時の国にあるって言ってた。ここがその国なら、炎の楯はここのどこかにあるはずだ」
「でもどうやって探すの?こんな広い場所で」

ハーブがのんびりと言った。
「案ずるより生むが安しさ。ひとつひとつ、端から調べよう」
そこで彼は、不思議そうにサキを見た。「でも、ひとつ分からないな。ピザン寺院のエウスが、失われた時の住人はオリジン族とか言っていた。ホーリー族と同じような種族だとも言ってたな。しかし、サキは見たところ、スリムだし、ヒューマン族の男の子に近い。まあ童顔だから、幼く見えるけど」
サキがぼそりと言った。
「これまで隠してきたけど――ぼくにも、あるんだ」
「あるって、何がだ?」
ハーブが無邪気に訊いて、ユーミンの恥ずかしさと非難の相半ばする目つきに気づいて、思い当たった。
「あっ!あれね――」彼は年甲斐もなく、顔を赤らめた。
サキがひっそりと説明した。
「父さんと母さんは、ぼくの体がヒューマン族と違うってことを、ずっと秘密にしていたんだ。だから、誰も気づかなかった。ぼくが裸になっても、見た目、男の子だから。まさか足の間に、割れ目が隠されているなんて――」
そこで彼は明るく笑った。「もう、こんなこと、どうでもいいじゃない。さあ、炎の盾を探しに行こうよ」

彼らが歩き出そうとしたときだった。どこからか、低音の深い声が聞こえてきた。
「ほほう、オリジン族にホーリー族、それに海洋族とは珍しい組み合わせだな」
3人はギョッとして立ち止まった。
「炎の楯を探しているのか?」
突然、3人の前に、銀色の大きな狼があらわれた。まるで、地の底から湧き出たようだった。「だったら、3つの謎を解かねばならん」
サキがハーブの腕にしがみついて、ささやいた。
「いやだ、狼がしゃべったよ」
「気をつけろ。並の狼じゃない」
ハーブが斧をかまえて注意した。サキも、いつでも鞭を使えるように身構えている。
「でも、どことなく知的な顔だね。ぼくの知ってるギルに似てる」
ユーミンが小声で言った。
銀色の狼がいらだたしそうに首を振った。
「何をごちゃごちゃ言ってる。炎の楯はいらんのか?」
狼がふたたび声をだした。頑丈そうな前足をまっすぐに伸ばし、堂々とした姿勢で立っている。
「それは、欲しいよ。でも――謎が解けなければ、どうするの?まさか、ぼくたちを食べちゃうって言うんじゃないでしょうね?」
サキが、上目遣いに狼を見て言った。
狼は気分を害したように、顔をしかめた。
「わしはそんな下品なことはせん。楯が欲しいのなら、無駄口を叩かずによく聞け。いいか、一度しか言わんぞ」

狼はもったいつけて、ゆっくりと言った。
「最初は簡単な問題にしてやる。イカルスの地底トンネルは、どこからどこまで通じている?」
3人は顔を見合わせた。
「イカルスの地底トンネル?そんなの知らないぞ」
「失われた時の国の地名かなあ?」
「最初は簡単な問題だなんて言って――こんなの無茶苦茶だよ」
3人はぶつくさ言いながら、あれこれと考え出した。
狼は涼しそうな顔をしている。
「どうだ、降参か?」

ふいにサキの表情が明るくなった。彼は顔をあげて、狼に言った。
「そんなの簡単じゃん。答えは、入り口から出口だよ」
「おい、サキ――それじゃあ――」
ハーブがサキに向かってなにか言おうとして、狼の表情に気づいた。こんどは狼のほうが、考え込んでいた。
ややあって、狼がつぶやいた。
「答えは、ギリシスからエロイスまでじゃが――入り口から出口だと?たしかに間違いではないが、はて、どうしたもんか」
サキがあっけらかんとして言った。
「あれっ、逆のエロイスからギリシスまでだって考えられるじゃん。ふたつある答えは反則。絶対に入り口から出口のほうが正解だよ」
狼はムッとした表情をしたが、しぶしぶうなずいた。
「よし、正解ということにしておこう。ところで、おまえたちを見ていると、どうも緊迫感が足らん。もうちょっとゲームを面白くしてやろう」

ふいにまわりが薄暗くなった。
3人は上を見上げてギョッとした。なんと彼らの頭上に、巨大な岩が浮かんでいるのだ。
狼が言った。
「謎解きに失敗すれば、あの岩が落ちてくるぞ」
「冗談じゃない、あんなのが落っこちてくれば、ぺちゃんこになってしまう」
「こんなのずるい」
「サキ、おまえが生意気言って、狼を怒らせたからだぞ」
「ええっ!ぼくは正解を言っただけじゃない。ぼくはもう降りるよ」
サキが岩の下から出ようとした。
「途中で降りることは許さん。岩の下から出れば、即、失格だ。いいか、岩はどこまでも追いかけて行くぞ」
狼が鋭く言った。
サキがあわてて立ち止まると、狼は満足そうにうなずいた。

「では、ふたつ目の謎だ。そこに、喉の渇きで死にかけた人間がいる」
目の前の地面に黒いかすみが浮かびあがり、実体化して男の姿になった。全身ミイラのように痩せこけて、仰向けに横たわり、口をあんぐりと開けている。
「ここにふたつの壷がある。それぞれ5合と3合の容量だ」
ふたつの銅製の壷があらわれた。その横の中空から水が流れ出した。不思議なことに、水は地面に落ちたところで土を濡らさずに、蒸発したように消えていた。
「ところが生憎、水を5合飲ませると、その人間の胃袋は破裂してしまう。また、3合では喉の渇きをいやせない。ぴったり4合飲ませれば良い。さあ、その人間を助けてやれ。急がないと死んでしまうぞ」
砂時計が中空に現れた。ひょうたん型のガラス容器の中で、細かい砂が下の器に流れ落ちはじめた。

「汚い。大岩で脅しておいて、今度は砂時計で焦らせるつもりだ」
サキが不平を言った。その間も、砂はどんどん流れ落ちていた。
「ぼくに任せて」
ユーミンが前に進み出た。
「おい、大丈夫か?」
ハーブが心配そうに言った。
ユーミンはそれに答えず、5合入りの壷を取って、流れ落ちる水を受けた。水が器の縁まで一杯になると、今度はそれを慎重な手つきで、3合入りの壷に注ぎだした。
3合入りの壷が水でいっぱいになると、彼は手にした5合入りの壷を、ミイラのような男のもとに運んだ。そして、壷の中に残った水を開かれた男の口に注いだ。心なしか、男の顔に少し生気がよみがえったようだ。
ユーミンは3合入りの壷を空にすると、もう一度、同じ作業をくりかえした。ほかのふたりは、手に汗にぎって、砂時計とユーミンのほうを交互に見ていた。上部のガラス容器に残った砂は、残りわずかだった。
ユーミンが水を飲まし終えた。
男の姿が薄くなり、陽炎のように立ち昇った。
「男は助かったのか?」
ハーブが不安そうに、上を見あげてつぶやいた。
上空の岩は落ちてこなかった。
[18/11/05 07:12 閑名三爺]
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