始まりは上野から
上野公園の西郷像の前に到着したのは、午後三時前で待ち合わせ時間より早かった。十月もあと数日で終わるというのに夏のように暑い日で上はポロシャツ一枚で十分だった。像の前に日傘や扇子を手にした観光客がいるのはいつもの光景なのだろう。上京して半年が経ち、初めてみる像をゆっくりひと回りした後、木陰で日差しを避けて待った。
「よおっ」
大きな声で太い右手を頭の上まで挙げながら田口さんは白い歯を見せ近づいてきた。百七十センチ程で七十キロを割るぐらいの自分と比べると、田口さんは縦にも横にも僕より二回りほど大きいがっちりした体格だった。
年齢も十九の僕と四十過ぎの田口さんさんでは親子ほどの差があった。その体躯をラコステの紺色のポロシャツとジーンズに包んでいた彼は、端正で小ぶりな顔立ちながら浅黒い肌と太い首と腕が特徴的だった。田口さんとは一か月前に知り合って、会うのは今回が二度目だった。何年も前からの知り合いのように、田口さんは会うなり僕の肩を抱き寄せた。
「コーヒーでも飲もうか」
と、声を掛けられ、何艘かのボートが浮かんでいる大きな池の周りの歩道を喫茶店に向かった。道行く人々には似たような体格で仲の良い二人は親子に見えてたのかも知れない。
「変なところに行かないで、ちゃんと大学行ってるか? 」
冗談めかして、僕に訪ねて来た。
「しっかり行ってますよーっ」
弟が兄に甘えるかのように僕は唇を尖らせて応えた。
歩きながら、頭の中をひと月前の田口さんとの衝撃的だった出来事が駆け巡った。
大した希望もなく、東京に行って大学生になりたいだけで入った大学なので、さほど期待はしていなかったが、いざとなると現実も、さほど面白いものでなかった。サークルにも入ったが、アルバイトを始めると参加する機会も減って夏休み以後は顔を出すこともしてなかった。
このままではいけないと決意し、切り替えてアルバイトを頑張ろうと決意した。駐車場の管理の他に自由に通える深夜のタクシーの洗車のバイトも始めた。
両親に「生活費は自分で稼ぐ」と断言して上京した手前、後には引けない。その大学生活も半年たち、夏休みも帰省しないでバイトしたため金銭的には少しながら好転してきたと言えないこともなかった。
念願だった童貞も夏休み中にソープランドで卒業できた。いろんな意味で一皮剥けた気がしたのだった。そして、名実ともに大人になった僕はなぜか、この時から性欲が一段強くなった気がした。
かといってガールフレンドがいるわけでもなく、日々自分で慰める日々だった。自慰のおかずがないかとネットで探し、ある日、上野近辺での情報に辿り着いた。
映画館で男がしゃぶってくれるという。ソープランドでされたフェラチオの良さが頭をよぎった。事実、僕にとってはソープでの挿入してからの射精より一発目のフェラチオの方が気持ちよかった気がした。そして、ふと四月の上京したての頃の出来事を思い出した。
大学の入学式の数日前のことだった。駅裏にある名画座と呼ばれる映画館に入った時のことだった。料金は安く、そのせいか館内は結構込み合っていた。コートを畳んで膝の上に載せて洋画を観ていたのだが、しばらくすると太もものあたりがもぞもぞしてきた。
隣席の男がジャンパーを自分の膝に乗せその下から手を伸ばして僕の股間を撫でて来たのである。
気にせずスクリーンを観ていると、その見知らぬおじさんはジッパーを引き下ろして手を潜らせてきた。肩を肩にくっつけて身体を寄せ大胆にもトランクスの中のモノを直に握ってきた。
戸惑う僕におじさんは耳元で、
「トイレに行こう」
と囁いた。
驚いた僕は立ち上がり、急ぐように映画館を出た。
後で考えると気持ち良かった気もするが、その時は驚きの方が上回った。
東京は凄いな、というのが僕のその時の率直な感想だった。
このことが契機になったのかも知れない。数か月経ち、放出できるなら男でも女でも構わないという気持ちが芽生えてきた。
夏休みが終わり、大学の授業が始まっても周囲には何も変化がなかった。と言うより誰もいなかった。アルバイト先の同僚を除けば。
そしてネットの情報をもとに、飛び込んだ上野の映画館の圧倒的な淫靡さに圧倒されたのは一か月前のことだった。
平日の昼下がりにも関わらず、そこは男の性気で溢れかえっていた。
自分の股間に伸びてくる幾多の手を振り払いながら薄暗い館内を凝視すると、蠢く男達の陰猥な性の一端が館内の表現しがたい淫臭とともに垣間見えた。
座席は中央付近がぽつんぽつんと2席空いていたが、ほぼ満員だった。
席は空いても直ぐに次の客で埋まった。まとめて二、三席が空いて直ぐ埋まるのが特徴だった。
後ろから二列目の席に白い半袖シャツの若い学生風の男が座ったのが見えた。挟みこむように中年二人が脇に座った。僕は他の人々と同じように壁にもたれて様子を眺めた。傍にいるオヤジの荒い鼻息が聞こえる。
一分も経たないうちに二列目の青年はシャツを首までめくり上げられ隣の男にキスされていた。股間には反対側の席の白髪男が顔を埋めていた。
青年は、それからものの二分も経たないうちに身体を弓なりに反らし声にならない声をあげて恥ずかしい姿を館内に晒した。
館内で他の客に観られながら射精した青年は、直後は恥ずかしそうに下を向いていたが満足げに笑みを浮かべた。
立って観ていた隣のジジイの指が、僕のジッパーを下げてパンツの中に入ってきたのに気づいたのは座席の青年が放出した直後だった。
僕は席が空いたら直ぐにそこに座ろうと身構えながら隣のじいさんの指に体を任せた。ゆっくりと焦らすように扱く年季の入った技巧だった。
驚いたことに座席の青年は席を立つことはなく今度は反対側のスーツの中年男が青年の座席前に潜った。青年の股間で男の頭が上下に動くのに合わせるように、見ていた僕の隣のジジイもむき出しにされた僕のムスコを握って上下させていた。
こんな所で立ったまま放出したくなかった僕は、自分のイチモツに撒きついているジジイの手を払いのけ、薄暗い館内から待合室に出た。
じいさんは大きな声で、
「トイレに行こう、続きをやろう」「ボクちゃんのデカマラ、可愛がってあげるからさ」
と、しつこく絡んで来て僕は閉口した。
その時だった、
「嫌がってるだろう、やめなよじいさん! 」
ドスの利いた野太い声だった。大柄ながっちりした体格の男の声に敵わないじいさんは顔を歪め舌打ちをして薄暗い館内に戻っていった。
「ありがとうございました」
と、僕が言うと、男は、
「おっ、礼儀正しいね! 初めてかい? 」
と微かに微笑んで続けた。
「あのじじい、みんなに嫌われてるんだけど、いつも居るんだよな」
周りにいた数人とともに、今度は苦笑いだった。
「もう大丈夫だよ、楽しんできな」
そう言って男は取り出したたばこに火を点けた。
僕は自販機で買ったコーラを飲んで五分ほど休憩してから、再び薄暗い館内に突入した
。場内の後方に人だかりが出来ている一角があった。僕は男たちの隙間に顔を潜り込ませた。
がっちりした体格で、褌の似合いそうな坊主頭の五十歳位の男が鉄の手すりを両手で握り尻を後ろに突き出していた。黒っぽいTシャツに下半身は裸で、尻が艶っぽくテカっていた。その腰を後ろから両手で掴み、ゆっくりと腰を前後に動かしているのは、ひと回りほど若いやせ型の男だった。彼はボタンを外して胸をはだけたポロシャツ一枚で引き締まった下半身には何もまとっていなかった。
坊主男は後ろからの抽送に、
「ああ、あー、いい……」
と、呻きとも.吐息とも取れる低い声を漏らし続けた。
やがて、後ろのやせ男が尻をキュっとすぼめて、
「ああっ、いくよー……」
と前の男に語りかけるように囁いて唸りながら男の尻穴に精を放った。
時を追いかけるように、突かれていたがっちり男も、
「いいっ」
と声とともに己の精を前にかがんで咥えこんでいる白髪爺さんの口に放った。
驚いたことに、鉄棒を掴んだ男の足元には、いつの間にかあの白髪じじいが、ひざまづいてがっちり男のモノを咥えこんでいたのだった。
見届けの観客となった男たちは、何故か溜息交じりにその場から散っていった。
「どうだ、面白いだろう」
休憩時間に入って館内が明るくなると僕の傍らには、さきほど待合室で世話になった大柄な男が立っていた。
「腹減ってないか、飯食いにいこう」
いかつい顔をしているわけでもなく、特に嫌いなタイプでもない。誘われるままについていった。
夕闇が訪れようとしていた。
入ったのは大衆食堂の看板かかった居酒屋のような店だった。
大柄な男は田口と名乗った。公務員と職業を言ったが僕には、そのがっちりした体格と短髪から警察官か自衛隊員だろうと想像がついた。僕は大学生と言ったが大学名まで聞かれ名乗った。
「あそこは武道が盛んだろう、やってるの? 」
と、聞かれたが、
「授業では取ってますけど、部活まではちょっと。バイトもやらなきゃならないんで」と返事した。
「そうだよな。大学って金かかるもんな。うちも弟が大学出てるんだけど、結構金かかったもんな」という。
「高校までは柔道やってました」
と言うと、
「そうだろう。いい体してるもの」
と、言い田口さんはコップに注がれたビールを一気に飲んで、
「ああ、うまい! 」
大きな声で言った。
二人は、食事を取りながらビールと酒を飲んだ。僕は酒は嫌いではなかったが機会が少なく、月に数回夕飯がてらに缶ビールを開けるぐらいだった。この日、勧められるままに飲んで、店を出る頃にはちょっと飲みすぎたかなと思っていた。
「ずっと立ちっぱなしだったから疲れたろう。身体もアソコも。少し休んでいこうか」
田口さんの言ってる意味はよく理解できなかったが僕は、
「はっ、はいっ」と流れでうなづいてしまった。
数分歩いて狭い路地を入ると、看板がなければ民家と見間違うような地味なホテルが目の前に現れた。
薄暗い部屋に入ると、日中の疲れと酒の回りもあって僕は急速に眠気に襲われてきた。服を脱がされていく記憶は微かにあったs
「はいはい、もっとリラックスして……」という田口さんの声を最後に、僕の記憶は飛んでしまっていた。
僕が尿意を感じて目覚めたのは午前1時過ぎのことだった。布団をめくって自分が全裸であることに自分で驚いた。そして同じ布団にもう一人の全裸の男が横になっていることにも。
呆然とその場に立ちすくむ僕に、目覚めた田口さんが上半身を起こし低いだみ声をかけてきた。
「シャワーでケツの穴を洗ってきな、もう一回可愛がってあげるから」と。
僕は、ゆっくりと歩いて洗面所に入った。
呆然と「もう一回……」と呟きながら。
シャワーを浴びながら尻穴に指を添えると容易に奥まで飲み込んだ。緩んでいるのは確かだった。
「やっちまったか」と、思いながら全身にシャワーを浴び、ペニスとアナルはソープを使って念入りに洗った。
ふと、田口さんと繋がっている自分の姿を想像して勃起してきたペニスに僕は戸惑った。
部屋に戻ると、田口さんが立ちあがっていた。。
「酔い覚ましに、何か飲んで待ってな! 」
と部屋の小さな冷蔵庫を指さし洗面所に消えた。
理想的な浅黒い筋肉質の鍛え上げた身体で張りのある尻をしていた。
「凄い身体だな」と小さな声で呟きながら僕はコーラを喉に流し込んだ。
飲み終える前に田口さんは部屋に戻ってきた。
恋人同士のようにキスしながらのまさぐりから始まりシックスナインでお互いのものを舐め合って準備は整った。
田口さんは持参したローションを丁寧に僕の尻穴とコンドームをまとった己の硬直に塗り込むと、仰向けの僕の表情をうかがいながらゆっくりと身体の中に押し入ってきた。
「ああ……」
と、僕は無意識に声を出してしまった。
その夜2回目であったことと既にアナルでのオナニーの経験もあったせいかこの時痛みは殆ど感じなかった。
男を受け入れている満足感と表現しがたい尻穴の初めての快楽を僕は感じて喘いだ。
「どうだ、気持ち良いか? 」
田口さんは、僕の返事を待つ間もなく上半身をかぶせて唇を合わせて来た。舌を絡めながらリズミカルに腰を振って僕に男同士のセックスの醍醐味を教え込んでいるようだった。
僕の先端に透明な我慢汁が浮かんできたのを確かめると。田口さんは態勢を変えた。
田口さんは仁王立ちで大学生の全裸姿を見下ろしていた。獲物を前にどのように料理しようか考える獣のごとくぎらついた眼差しで。
がちがちの筋肉質ではなく程よく尻に脂の乗った色白の大学生の身体は久しぶりだったようだ。
「おいしそうなケツしてるよな」とつぶやいた。
目の前にひざまづいた大学生のぎこちない口淫だったが、ペニスは瞬く間に硬さを増した。
田口さんは、四つん這いの学生の尻穴に再び潤滑剤を塗り込んで、後ろから硬直を一気に押し込んできた。
夕方から何度も入れられ慣れてきたせいか、僕はペニスの違和感は全く感じなかった。それよりも尻穴で男を咥えこむ満足感とともに、身体の奥から快感がじわじわと先端に伝わりつつあることに戸惑った。
田口さんは、後ろからゆっくりと僕の身体にペニスを出し入れさせた。右手を前に回して半勃ちのモノを握ってやると、僕は思わず、
「ああーっ……、いいっ」と歓びの喘ぎが漏らした。
同時に、僕の鈴口から白い粘液が少しずつ溢れ出しているのが確かめられた。
そして時折、キューっと閉まる尻穴が責める田口さんを喜ばせた。
「おおー、いいよ……いいよ」
と、快楽に翻弄されて切なく呻く僕を励ました。
「ああ、気持ちいい」
という言葉しか、その時僕は思いつかなかった。
何時間、二人は絡み合っていたのだろう。何度もしゃぶられ、色々な格好で挿入され、休憩を鋏ながらも何度も扱かれ、文字通り僕はキンタマが空になるまで放出させられた。
空が白み始めたころ二人はホテルを出た。同じように男同士でチェックアウトする客が他にもいたので、
「東京にはこの類の人々が結構いるんだな」と、僕は妙に感心した。
田口さんと僕は二十四時間営業の立ち食い蕎麦を並んで食べて分かれた。
「眠るなよ! 終点まで連れて行かれちゃうぞ」
田口さんの経験から来た適切なアドバイスだった。疲れ切った身体は座席で一度眠ったら起きることは不可能だった。
僕は電車で睡魔と必死に戦いながら最寄りの駅までたどり着いた。
電車を降りると昇り始めた朝日が眩しかった。僕には太陽が黄色く見えた。
やっとの思いでアパートの部屋に辿り着いた僕は、夕方までベッドに潜って死んだように眠った。
学業とバイトに追われた日々に余裕が出来たのは各大学で学祭が始まったころだった。
田口さんとのあの夜から、ひと月が経った。
僕の股間は、疼き始めていた
池の中をカップルの漕ぐ数隻のスワンボートがゆっくりと動いていた。僕と田口さんはそれを眺めながら淵の道を歩いた。
「乗りたそうだな、乗るか? 」と言う田口さんに、
「いえいえ、大丈夫です」と、苦笑いで返答した。
そばにいると田口さんは「でかいな」と本当に思う。
「何センチあるんですか?」
「ウエストか?」
「いえいえ、身長です」
「若い頃は185あったけどな。今はちょっと縮んで183かな」
僕は驚いて、
「身長って、縮むんですか? 」
「ああっ、お前も六十歳ぐらいになったら150位になるんじゃないか」
「ええっ」
僕も田口さんも、くだらない冗談に同時に笑い出した。
喫茶店に入り、コーヒーを注文してウエイトレスが去ると早速、田口さんが尋ねてきた。
「あれから、どっかへ遊びに行ったか? 」
「いいえ。全然。バイトと大学の明け暮れですよ」
「そうか! 」
と、ちょっと安心したような田口さんの表情が僕は嬉しかった。自分の相方であることを認められたような気がした。
また、アルバイトの時給が安いとか、上京して戸惑ったこまごまとした相談事にも田口さんは相槌を打って頷きながら答えてくれた。
喫茶店を出ると、時計は午後四時を回っていた。田口さんは、
「ちょっと早いけど飯に行くか? 」
「この前の店ですか? 」
「そうだよ、思い出の店だ」
と、田口さんは思わせぶりな笑顔を見せた。
一か月前に僕は、その店で飲みすぎて半ば意識を失い、田口さんにホテルに連れ込まれアナルバージンを奪われたのだった。その状況は殆ど記憶にはないが。
もちろん、酔いがさめた後には男の快楽をたっぷり仕込まれた事もまた事実だった。
僕にとっては、苦いも甘いも両方混ざった、定食も頂ける色々と便利な居酒屋ということになった。
前の時はカウンターで隣り合わせだったが、今回は奥のボックス席だった。
「実は、もう一人来るんだよ、友達が! 」
ビールジョッキを持ち上げて、カチンと合せる寸前に田口さんは大事なことをさりげなく言った。
「えっ! 」
と、問いかける僕を無視して、顎をしゃくり上げて、
「カンパイッ」と言う田口さん。
「今夜はーっ、楽しい夜になるぞう! 」
「飲み過ぎるなよ武男くーん! 」
この夜、店を出るまでに田口さんのこのフレーズを何度聞いたことか。
夕方五時を回って街は薄暗くなり、居酒屋の提灯が目立つ時間になってきた頃だった。
スーツ姿の男が手にハンカチを持って暖簾を潜ってきた。壁際の席の田口さんが立ち上がって手招きすると、男は気付いて軽く手を挙げて近づいてきた。
田口さんに促され僕は壁際に移動した。壁際の僕と田口さんが横並びで男と対面する形になった。
田口さんが何度も「先輩! 」と呼ぶところから、男は高校か大学の先輩だろうと推測した。
男は苅田と名乗った。田口さんの大学の先輩であることも分かった。年齢は、頭頂部まできれいに禿げあがってるところを見ると六十近いだろうと思われた。汗は搔いていたが顔の艶はよかった。スーツも時計も上等なのは僕にも理解できた。
身長は田口さんと僕との中間ぐらいで一七五センチぐらいだろうか。がっちりした柔道経験者体型は三人とも同じだった。
先輩が現れて安心したのか分からないが、田口さんは一番先に酔いがが回ってきたようだった。一時間もすると、
「先輩!……先輩! 」と、苅田さんに何度も呼びかけ、
「もう酔っぱらたのか、田口!」と苅田さんから諭されていた。
千鳥足で田口さんは、
「休んでいきましょう」と苅田さんに呟いていた。
僕が田口さんに会って酔った夜、「休んでいこうか」と言われたことをふと思い出した。
同じホテルだった。違いと言えば、田口さんとの前回は和室だったが今回の部屋は大きな洋室で三人以上に対応出来るようにダブルベッドが二つ並んでサイドに大きな鏡がついていることだった。
苅田さんは全裸になった僕を、
「いいカラダしてるね」と褒めながら自分も脱いだ。
きれいに洗浄した後、僕は苅田さんに抱かれた。
僕の喘ぎに応えるように苅田さんは、
「いいよ……いいよっ! 」と囁きながら太目の自分自身をゆっくりと抜き差しし続けた。
田口さんは服を着たまま部屋の隅でいびきをかいて眠っていた。
一戦を終えた苅田さんと僕は布団を被って眠りについた。
僕は、男のうなり声で目が覚めた。
隣のベッドで田口さんと苅田さんが互いに獣のような唸り声をあげながら絡んでいた。仰向けになった方の両足を肩に担いで浮いた尻に突き入れているのが苅田さんだった。身体を折り曲げるようにされて男を尻穴で受け入れているのが田口さん。
手慣れた動きで二人は態勢を変え、直ぐに後ろから繋がった。
中年の男二人の性欲のぶつかり合いに僕は感心せざるを得なかった。
特に六十歳近いだろう苅田さんのタフさには驚いた。この前に僕も抱かれてるから2連発である。セックス初心者の僕にはまだ分からない深いものがあるのだろうと理解した。
三人は、セックス、シャワー、休憩を繰り返し、ウケと呼ばれる挿入される側とタチと呼ぶ責める側も交替しながら、体力が尽きるまで貪欲に快楽を求めた。
朝日が昇り始めた時刻。、裸の男三人は、抱き合うように同じベッドで深い眠りの最中だった。
田口さんから携帯電話が入ったのは、それから一週間後のことだった。「バイトの件で苅田さんが会いたいといっている」ということだった。
前に会った時に、「時給が安く、条件もあまり良くない今のバイトを変わりたい」とグチったのを、苅田さんは気にかけていたのか、と思うと、ちょっと嬉しかった。
苅田さんの会社は神田の駅前にあった。一階は賃貸などの紹介をする店が入っており、その三階だった。
受付で「苅田」と言う名前を出した時に僕は初めて驚いた。
「苅田支店長でございますか。少々お待ちください」
と、言われたのだ。全国的に知られている会社で、彼がその支店長あることに驚いた。
室内の一番奥だった。僕を確認すると苅田さんは椅子から立ち上がった。
「ごめんごめん、野暮用が出来ちゃってさ。ちょっと時間をつぶしてくれる?」
大事な顧客が会社を訪ねてくることが急に決まったのだった。
時計を見ると、午後三時だった。待ち合わせまで二時間あった。
「パチンコでもしててよ」と苅田さんは五千円札を握らせた。「大丈夫です」と断ったが苅田さんは握った手を離してくれなかった。
「このまま帰られるかも知れない」と思ったんだろう。
僕は、上野まで電車で行って洋画を一本見た。待ち合わせの上野駅前に歩いていくと、ちょうどいい時間だった。
苅田さんは上野にある老舗の鰻屋に連れて行ってくれた。
「さすが支店長! 」と心の中で思った。
苅田さんは僕のバイトの件でも、知り合い伝いに探して条件のよいところを見つけてくれた。
「お礼は、今夜たっぷりと」と、内心思っていた。
新しいバイトは十二月からと決まった。苅田さんの話では、
「今のバイトを辞めると職場に連絡すると、即クビにする所もあるから、それに備えて支度金十万円を早めに出すから」と言うことだった。
苅田さんの配慮に感謝以外の言葉が見つからなかった。
酒を少し飲み、鰻を食べて満足した僕と苅田さんは、冷たくなってきた上野の夜風に当たりながら暖かい缶コーヒーを手に路地裏のラブホテルの門をくぐった。
ほどよく酔って身体が温まって気持ち良い夜だった。先にシャワーを浴びていると苅田さんが入ってきた。
「今夜は僕が受けるから」と言って僕のムスコを触ってきた。
僕は軽く済ませ、部屋に戻ってたばこを一服した。
苅田さんは念入りに尻穴を洗浄したのだろう。十分ほど経つと「やあ、やあ、やあ」と訳の分からない言葉を発しながら部屋に戻ってきた。
僕と苅田さんの全裸での宴がはじまった。二十歳の童顔の青年と五十すぎのおっさんの濃厚な夜が。
ベッドの傍らに立って唇を合わせ、身体をまさぐり、辿り着いたお互いのペニスをしごき合う。シックスナインの態勢を取り、吐息を漏らしながらゆっくりと勃起を舐め合った。
ベッドのに仰向けになった苅田さんの尻穴と、コンドームを嵌めた自分の硬直にローションを塗り込む。
狙いを定めて苅田さんの身体にゆっくりと腰を沈めると、
「ああーっ」と、苅田さんの小さな喘ぎ。
上半身を倒し、身体を合わせ、舌を絡めながら一定のリズムでゆっくりと腰を振る。
「ああっ……いいっ……」
苅田さんが顎を突き出して喘ぐ。
頃合いを見計らって態勢を変える。
後ろから繋がると、気持ち良いのだろう、苅田さんの声色が変わった。
「あーっ……、あーっ……」と泣きそうな声になってきた。
おじさんも疲れて来たのだろう。遂にはベッドにうつ伏せになってしまった。
それでも男が欲しいのだろう、尻だけを持ち上げて僕のモノを後ろから入れて欲しいと、せがんできた。
後から聞いた話では、苅田さんは最初に交わった時から、僕のペニスと相性が良いのを感じていたらしい。ただ、僕の先口の田口さんに気を使ってその時は言わなかったらしい。
僕は苅田さんの中で先にフィニッシュを迎えた。
ベッドで行けなかった苅田さんのために僕はひざまづいて尺八をしてあげた。
全裸で正座した青年が、自分の男根を愛おしそうに舐め回すのを見下ろすのは堪らない。相手を服従させている気になって高揚するらしい。この時も苅田さんはそうだったはずだ。
まもなく、
「ああーっ」
と、ひときわ甲高い声をあげて、僕の口中に断続的に射精した。
ホテルを出たのは午後十一時ごろだった。通りに出て僕は苅田さんのタクシーを拾って見送った。
疲れ切った苅田さんが、タクシーに乗り込んでから僕に向かって笑顔をみせてくれたのは満足した証拠だと思い、内心ほっとした。
これから色々とお世話になる人だから、僕に出来ることはしっかりと取り組んでいこうと決意したのだった。
春。三月を迎え、東京は暖かくなるとともに喧騒も一段と増していた。
僕にとっては、この数か月ほど忙しい時期は経験がなかった。二月半ばになって大学が春休みに入ったので一息ついた感じだった。
大学から地下鉄で二駅離れた不動産会社の雑用兼連絡係としてバイト採用され年末からずっと忙しい日々を送っていた。三月に入っても決算だとかで忙しかったが大学が休みに入った分だけ余裕ができていた。公務員の田口さんも会社の管理職の苅田さんも忙しかったのだろう。
苅田さんとは仕事で二度会ったが、田口さんとは機会がなかった。田口さんのデカマラが時々恋しくなった。
三月末になると決算の準備も終わり、時間に余裕ができた。
その日、久しぶりに上野のアノ映画館に行ってみた。午後三時というのに館内の通路は込み合っていた。座席はまばらに空きがあった。奥の薄暗い一角で怒鳴り声がしたので前の人の肩越しに覗いた。
二十歳前の少年が全裸になっていた。周りの男たちが一斉に襲い掛かって剝ぎ取ったんだろう。着て来たのだろうジャンパー一枚を手に少年は半べそを掻いていた。
少年を取り囲む男たちを怒鳴っていたのは、二人のじいさんだった。手には取り返した少年のジーンズを持っていた。
僕は、その一人の薄汚れたオーバーオールを着たじいさんに見覚えがあった。前に来た時に僕にしつこく付き纏い田口さんに怒鳴られた白髪のじいさんに違いなかった。
ある意味、僕と田口にとっては、薄汚れたキューピッドでもあった。
少年はじいさん二人に肩を抱かれて暗がりから外に出た。ジーンズは白髪じいさん手に持ったままで少年はジャンパーを羽織っただけで下半身は剝き出しだった。
引き締まった色白の尻と、細身の体に似合わぬ太さの半勃ちペニスに僕は感心した
そして、この時ある予感がした。
五分待ってトイレに行った。予感は当たっていた。
隣の個室から覗き込む男、個室のドアに耳をそばだてて自分のものを扱いてる男と、それぞれだった。
個室から、少年の切なそうな喘ぎ声が途切れ途切れに漏れてくる。
中から聞こえる「ぱちっ、ぱちっ」という湿った音はじいさんの腰が少年の尻に当たる音だった。「うーん、うーん」と言う唸りは白髪じいさんがしゃぶっている時にでる声だと分かった。
僕は、入口わきの待合室でコーラを飲んでいた。しばらくして三人が出て来た。
少年は、すっきりした爽やかな表情で映画館から出て行った。
「初めてじゃないな。あの若さで結構遊んでるんだな」と、僕は思った。
二人のタフなじいさんは、再び館内に突撃していった。僕は苦笑いしてしまった。
周りの人としばらく休憩してから館内に入って見ると、少年をバックで責めていたあのじいさんが一番前の席で大股を開いていびきを掻いていた。
だれかが悪戯したのだろう、ジッパーが全開にされて小ぶりのペニスが剥き出しにされていた。
学校が春休みということもあるのだろう。ふだんはほとんど見ない若者もちらほらと見かけた。
自分は男色を知ってまだ半年で交わりも数えるほどしか知らないし、相手も年の離れた先輩ばかりだが、若い奴はどうなんだろう、自分と同年代同士のゲイセックスは。
三月下旬。バイト先の不動産会社の決算の準備もほぼ終わり、僕は忙しさから解放された。
もっとも、支店は賃貸も扱っているため店自体は一年で最も忙しい時期を迎えていた。
この日は久しぶりの休日だった。大学が春休みということもあり、のんびり過ごそうと決めていた。
狭い部屋に籠っているのは好きじゃないので、僕は買い物がてらラフな恰好で上野に出た。
夕飯まで時間もあることだし、遊んでいこうとロッカーに買った荷物を預け、目の保養でもしようかと例の映画館に向かった。
街中の人々は年度末で忙しく働いているというのに、一隅のゲイの集う映画館は館内も待合室もすれ違うのも大変なほど混みあっていた。
リタイアした年金暮らしの老人が多いのはもちろんだが、働き盛りのはずの中年の男たちも結構いた。
みんな好きなんだなあ、と僕は感心しながら入口脇の待合室で雑談に耳を傾けながらコーラを口にしていた。
暗がりから扉をドンと押して若い男が勢いよく出て来た。黒のタンクトップで上半身の筋肉を強調し、ぴったりと張り付いたグレーのスウェットパンツは股間の膨らみを強調していた。
そして、その顔を見た時、僕は思わず、自分の目を見開いて凝視してしまった。
若者が出口に歩を進めた時、僕は思わず、
「横田ー! 」と叫んでしまった。
若者は吃驚した様子で振りむき、僕の顔を確認すると、彼もまた目を見開き、
「タケーっ」と、僕の名を叫んだ。
僕が、
「なんだよ、その恰好」
と、言う前に横田が、
「なんだよ、その頭! 」
と、僕の角刈りをからかった。
通う学校は違ったが、横田と僕は中学時代からの柔道のライバルで、勝ち抜いていくと必ず彼との対戦になり、いつも僕が負けた。それでも「強くなってるぞ」と、いつも健闘を称えてくれるナイスガイが横田だった。
柔道の強い地元の大学に進むと言っていた彼だったが、高校の三年になると大会で見かけなくなった。人づてに聞いた話では「ケガで柔道をやめた」とのことだった。その後、彼と会うこともなく高校生活は終わりを告げた。
彼に、何があったのだろうという疑問はずっと持ち続けていた。
それが春休みに、東京のこの場所で彼に会うとは、夢にも思っていなかった。
二年ぶりの出会いに感謝し、僕らは一緒に上野の街に出て居酒屋で乾杯した。
僕がゲイの道を歩み始めていることを敏感に感じ取った横田は、たわいもない雑談の後、自分のあの頃を語ってくれた。
高一の秋に先輩コーチに犯られ、卒業までたっぷり仕込まれたこと。そのコーチが他の複数の生徒にも手を出し、嫌いになったこと。コーチが翌年から地元の大学のコーチになると聞いて志望を変更したことなどを、とつとつと語った。
最初は、部の合宿中の深夜に寝ているところをコーチに襲われ、しゃぶられたという。疲労で夢うつつの中でコーチの口中に射精してしまい、その後気付いたという。
数日してお返しを要求されコーチのペニスを尺八させられたという。
その後、コーチのアパートに何度か呼び出され関係を持ったということだった。
高二の秋の練習中に手首を骨折し、治っても握力が落ちて手首に力が入らなくなったのが柔道を辞めた原因だという。
気持ちの持って行き場を失って生活が荒れてしまったと横田は言う。
コーチのゲイ仲間である若い連中や、コーチの行きつけのゲイバーの中年の客などと遊んだという。頭の禿げた六十過ぎの爺さんの相手をして小遣いを貰ったこともあるという。
そしてある時、コーチが他の部員にも手を出していることを知り、彼について行けなくなったという。
それで横田は東京の大学に進学したのか、と僕は納得した。
また、コーチはいったん大学のコーチに就任したが匿名の情報により部員との関係が知れ、後日、免職となっていた。
「お前が情報を寄せたのか? 」
との僕の問いに、横田は沈黙するだけだった。
「それで、今はどうなんだ!」と尋ねると横田は満面に笑みを浮かべ、
「楽しいよ、毎日!」
そして、小声になって、
「今夜、タケを抱けると思うと、凄く楽しい」
と言った。
「ばかっ!」「お前は趣味じゃないよ! 」
と、言って横田の頭をポカリと叩いた僕も、酒を飲んでるせいじゃなく、楽しくなってきていた。
僕と横田は酔いと流れに身体を委ね、一緒にホテルに入った。
高校時代にたっぷり仕込まれ、東京でも研鑽を積んでる横田の技巧はさすがで、僕を何度も泣かせてくれた。
空が白み始める頃、キンタマが空っぽになって射精できなくても男はケツでイクことが出来ると、僕は初めて知った。
電車が走り始めたころ僕らはホテルを出た。僕はフラフラだったが、横田は余裕綽々だった。
高校時代、将棋の駒のような輪郭の顔の横田を「飛車角」と読んでいたが、僕はこの時から彼を「先生」と呼ぶことに決めた。
四月、僕は大学二年になった。一年の単位もほぼ予定通り取得できた。
バイトもしっかりやるために、二年目の授業はできるだけ午前中に取ることに決めた。その方がバイトもしっかりできる。
そのバイトは、三月までは支店勤務だったが、四月からは本社に籍を移しての准社員扱いの連絡兼雑用係となり時給もグンと上がった。本社と支店との往来が主だが外回りの仕事も少し任されることになった。
社員扱いの背広が支給され、スーツにネクタイと革靴という、およそ学生に似つかわしくない恰好で大学にも通うことになった。
頭も、坊主頭はまずいと考え、頭頂部の髪を伸ばし短めの角刈りに変えた。のんびり顔から精悍な顔つきに変わったと自分では思っている。
見方を変えれば、よりゲイらしくなったとも言えた。
大学では、数少ない女友達から言葉を掛けられた。
「どうしたのよ、その頭、恰好」と。
「どうだ、似合うだろう!」
と、言葉を返せる余裕が出来てきていた。
学業よりバイトに充実感を感じてた僕は、どんな言葉も意に介さなかった。
完
「よおっ」
大きな声で太い右手を頭の上まで挙げながら田口さんは白い歯を見せ近づいてきた。百七十センチ程で七十キロを割るぐらいの自分と比べると、田口さんは縦にも横にも僕より二回りほど大きいがっちりした体格だった。
年齢も十九の僕と四十過ぎの田口さんさんでは親子ほどの差があった。その体躯をラコステの紺色のポロシャツとジーンズに包んでいた彼は、端正で小ぶりな顔立ちながら浅黒い肌と太い首と腕が特徴的だった。田口さんとは一か月前に知り合って、会うのは今回が二度目だった。何年も前からの知り合いのように、田口さんは会うなり僕の肩を抱き寄せた。
「コーヒーでも飲もうか」
と、声を掛けられ、何艘かのボートが浮かんでいる大きな池の周りの歩道を喫茶店に向かった。道行く人々には似たような体格で仲の良い二人は親子に見えてたのかも知れない。
「変なところに行かないで、ちゃんと大学行ってるか? 」
冗談めかして、僕に訪ねて来た。
「しっかり行ってますよーっ」
弟が兄に甘えるかのように僕は唇を尖らせて応えた。
歩きながら、頭の中をひと月前の田口さんとの衝撃的だった出来事が駆け巡った。
大した希望もなく、東京に行って大学生になりたいだけで入った大学なので、さほど期待はしていなかったが、いざとなると現実も、さほど面白いものでなかった。サークルにも入ったが、アルバイトを始めると参加する機会も減って夏休み以後は顔を出すこともしてなかった。
このままではいけないと決意し、切り替えてアルバイトを頑張ろうと決意した。駐車場の管理の他に自由に通える深夜のタクシーの洗車のバイトも始めた。
両親に「生活費は自分で稼ぐ」と断言して上京した手前、後には引けない。その大学生活も半年たち、夏休みも帰省しないでバイトしたため金銭的には少しながら好転してきたと言えないこともなかった。
念願だった童貞も夏休み中にソープランドで卒業できた。いろんな意味で一皮剥けた気がしたのだった。そして、名実ともに大人になった僕はなぜか、この時から性欲が一段強くなった気がした。
かといってガールフレンドがいるわけでもなく、日々自分で慰める日々だった。自慰のおかずがないかとネットで探し、ある日、上野近辺での情報に辿り着いた。
映画館で男がしゃぶってくれるという。ソープランドでされたフェラチオの良さが頭をよぎった。事実、僕にとってはソープでの挿入してからの射精より一発目のフェラチオの方が気持ちよかった気がした。そして、ふと四月の上京したての頃の出来事を思い出した。
大学の入学式の数日前のことだった。駅裏にある名画座と呼ばれる映画館に入った時のことだった。料金は安く、そのせいか館内は結構込み合っていた。コートを畳んで膝の上に載せて洋画を観ていたのだが、しばらくすると太もものあたりがもぞもぞしてきた。
隣席の男がジャンパーを自分の膝に乗せその下から手を伸ばして僕の股間を撫でて来たのである。
気にせずスクリーンを観ていると、その見知らぬおじさんはジッパーを引き下ろして手を潜らせてきた。肩を肩にくっつけて身体を寄せ大胆にもトランクスの中のモノを直に握ってきた。
戸惑う僕におじさんは耳元で、
「トイレに行こう」
と囁いた。
驚いた僕は立ち上がり、急ぐように映画館を出た。
後で考えると気持ち良かった気もするが、その時は驚きの方が上回った。
東京は凄いな、というのが僕のその時の率直な感想だった。
このことが契機になったのかも知れない。数か月経ち、放出できるなら男でも女でも構わないという気持ちが芽生えてきた。
夏休みが終わり、大学の授業が始まっても周囲には何も変化がなかった。と言うより誰もいなかった。アルバイト先の同僚を除けば。
そしてネットの情報をもとに、飛び込んだ上野の映画館の圧倒的な淫靡さに圧倒されたのは一か月前のことだった。
平日の昼下がりにも関わらず、そこは男の性気で溢れかえっていた。
自分の股間に伸びてくる幾多の手を振り払いながら薄暗い館内を凝視すると、蠢く男達の陰猥な性の一端が館内の表現しがたい淫臭とともに垣間見えた。
座席は中央付近がぽつんぽつんと2席空いていたが、ほぼ満員だった。
席は空いても直ぐに次の客で埋まった。まとめて二、三席が空いて直ぐ埋まるのが特徴だった。
後ろから二列目の席に白い半袖シャツの若い学生風の男が座ったのが見えた。挟みこむように中年二人が脇に座った。僕は他の人々と同じように壁にもたれて様子を眺めた。傍にいるオヤジの荒い鼻息が聞こえる。
一分も経たないうちに二列目の青年はシャツを首までめくり上げられ隣の男にキスされていた。股間には反対側の席の白髪男が顔を埋めていた。
青年は、それからものの二分も経たないうちに身体を弓なりに反らし声にならない声をあげて恥ずかしい姿を館内に晒した。
館内で他の客に観られながら射精した青年は、直後は恥ずかしそうに下を向いていたが満足げに笑みを浮かべた。
立って観ていた隣のジジイの指が、僕のジッパーを下げてパンツの中に入ってきたのに気づいたのは座席の青年が放出した直後だった。
僕は席が空いたら直ぐにそこに座ろうと身構えながら隣のじいさんの指に体を任せた。ゆっくりと焦らすように扱く年季の入った技巧だった。
驚いたことに座席の青年は席を立つことはなく今度は反対側のスーツの中年男が青年の座席前に潜った。青年の股間で男の頭が上下に動くのに合わせるように、見ていた僕の隣のジジイもむき出しにされた僕のムスコを握って上下させていた。
こんな所で立ったまま放出したくなかった僕は、自分のイチモツに撒きついているジジイの手を払いのけ、薄暗い館内から待合室に出た。
じいさんは大きな声で、
「トイレに行こう、続きをやろう」「ボクちゃんのデカマラ、可愛がってあげるからさ」
と、しつこく絡んで来て僕は閉口した。
その時だった、
「嫌がってるだろう、やめなよじいさん! 」
ドスの利いた野太い声だった。大柄ながっちりした体格の男の声に敵わないじいさんは顔を歪め舌打ちをして薄暗い館内に戻っていった。
「ありがとうございました」
と、僕が言うと、男は、
「おっ、礼儀正しいね! 初めてかい? 」
と微かに微笑んで続けた。
「あのじじい、みんなに嫌われてるんだけど、いつも居るんだよな」
周りにいた数人とともに、今度は苦笑いだった。
「もう大丈夫だよ、楽しんできな」
そう言って男は取り出したたばこに火を点けた。
僕は自販機で買ったコーラを飲んで五分ほど休憩してから、再び薄暗い館内に突入した
。場内の後方に人だかりが出来ている一角があった。僕は男たちの隙間に顔を潜り込ませた。
がっちりした体格で、褌の似合いそうな坊主頭の五十歳位の男が鉄の手すりを両手で握り尻を後ろに突き出していた。黒っぽいTシャツに下半身は裸で、尻が艶っぽくテカっていた。その腰を後ろから両手で掴み、ゆっくりと腰を前後に動かしているのは、ひと回りほど若いやせ型の男だった。彼はボタンを外して胸をはだけたポロシャツ一枚で引き締まった下半身には何もまとっていなかった。
坊主男は後ろからの抽送に、
「ああ、あー、いい……」
と、呻きとも.吐息とも取れる低い声を漏らし続けた。
やがて、後ろのやせ男が尻をキュっとすぼめて、
「ああっ、いくよー……」
と前の男に語りかけるように囁いて唸りながら男の尻穴に精を放った。
時を追いかけるように、突かれていたがっちり男も、
「いいっ」
と声とともに己の精を前にかがんで咥えこんでいる白髪爺さんの口に放った。
驚いたことに、鉄棒を掴んだ男の足元には、いつの間にかあの白髪じじいが、ひざまづいてがっちり男のモノを咥えこんでいたのだった。
見届けの観客となった男たちは、何故か溜息交じりにその場から散っていった。
「どうだ、面白いだろう」
休憩時間に入って館内が明るくなると僕の傍らには、さきほど待合室で世話になった大柄な男が立っていた。
「腹減ってないか、飯食いにいこう」
いかつい顔をしているわけでもなく、特に嫌いなタイプでもない。誘われるままについていった。
夕闇が訪れようとしていた。
入ったのは大衆食堂の看板かかった居酒屋のような店だった。
大柄な男は田口と名乗った。公務員と職業を言ったが僕には、そのがっちりした体格と短髪から警察官か自衛隊員だろうと想像がついた。僕は大学生と言ったが大学名まで聞かれ名乗った。
「あそこは武道が盛んだろう、やってるの? 」
と、聞かれたが、
「授業では取ってますけど、部活まではちょっと。バイトもやらなきゃならないんで」と返事した。
「そうだよな。大学って金かかるもんな。うちも弟が大学出てるんだけど、結構金かかったもんな」という。
「高校までは柔道やってました」
と言うと、
「そうだろう。いい体してるもの」
と、言い田口さんはコップに注がれたビールを一気に飲んで、
「ああ、うまい! 」
大きな声で言った。
二人は、食事を取りながらビールと酒を飲んだ。僕は酒は嫌いではなかったが機会が少なく、月に数回夕飯がてらに缶ビールを開けるぐらいだった。この日、勧められるままに飲んで、店を出る頃にはちょっと飲みすぎたかなと思っていた。
「ずっと立ちっぱなしだったから疲れたろう。身体もアソコも。少し休んでいこうか」
田口さんの言ってる意味はよく理解できなかったが僕は、
「はっ、はいっ」と流れでうなづいてしまった。
数分歩いて狭い路地を入ると、看板がなければ民家と見間違うような地味なホテルが目の前に現れた。
薄暗い部屋に入ると、日中の疲れと酒の回りもあって僕は急速に眠気に襲われてきた。服を脱がされていく記憶は微かにあったs
「はいはい、もっとリラックスして……」という田口さんの声を最後に、僕の記憶は飛んでしまっていた。
僕が尿意を感じて目覚めたのは午前1時過ぎのことだった。布団をめくって自分が全裸であることに自分で驚いた。そして同じ布団にもう一人の全裸の男が横になっていることにも。
呆然とその場に立ちすくむ僕に、目覚めた田口さんが上半身を起こし低いだみ声をかけてきた。
「シャワーでケツの穴を洗ってきな、もう一回可愛がってあげるから」と。
僕は、ゆっくりと歩いて洗面所に入った。
呆然と「もう一回……」と呟きながら。
シャワーを浴びながら尻穴に指を添えると容易に奥まで飲み込んだ。緩んでいるのは確かだった。
「やっちまったか」と、思いながら全身にシャワーを浴び、ペニスとアナルはソープを使って念入りに洗った。
ふと、田口さんと繋がっている自分の姿を想像して勃起してきたペニスに僕は戸惑った。
部屋に戻ると、田口さんが立ちあがっていた。。
「酔い覚ましに、何か飲んで待ってな! 」
と部屋の小さな冷蔵庫を指さし洗面所に消えた。
理想的な浅黒い筋肉質の鍛え上げた身体で張りのある尻をしていた。
「凄い身体だな」と小さな声で呟きながら僕はコーラを喉に流し込んだ。
飲み終える前に田口さんは部屋に戻ってきた。
恋人同士のようにキスしながらのまさぐりから始まりシックスナインでお互いのものを舐め合って準備は整った。
田口さんは持参したローションを丁寧に僕の尻穴とコンドームをまとった己の硬直に塗り込むと、仰向けの僕の表情をうかがいながらゆっくりと身体の中に押し入ってきた。
「ああ……」
と、僕は無意識に声を出してしまった。
その夜2回目であったことと既にアナルでのオナニーの経験もあったせいかこの時痛みは殆ど感じなかった。
男を受け入れている満足感と表現しがたい尻穴の初めての快楽を僕は感じて喘いだ。
「どうだ、気持ち良いか? 」
田口さんは、僕の返事を待つ間もなく上半身をかぶせて唇を合わせて来た。舌を絡めながらリズミカルに腰を振って僕に男同士のセックスの醍醐味を教え込んでいるようだった。
僕の先端に透明な我慢汁が浮かんできたのを確かめると。田口さんは態勢を変えた。
田口さんは仁王立ちで大学生の全裸姿を見下ろしていた。獲物を前にどのように料理しようか考える獣のごとくぎらついた眼差しで。
がちがちの筋肉質ではなく程よく尻に脂の乗った色白の大学生の身体は久しぶりだったようだ。
「おいしそうなケツしてるよな」とつぶやいた。
目の前にひざまづいた大学生のぎこちない口淫だったが、ペニスは瞬く間に硬さを増した。
田口さんは、四つん這いの学生の尻穴に再び潤滑剤を塗り込んで、後ろから硬直を一気に押し込んできた。
夕方から何度も入れられ慣れてきたせいか、僕はペニスの違和感は全く感じなかった。それよりも尻穴で男を咥えこむ満足感とともに、身体の奥から快感がじわじわと先端に伝わりつつあることに戸惑った。
田口さんは、後ろからゆっくりと僕の身体にペニスを出し入れさせた。右手を前に回して半勃ちのモノを握ってやると、僕は思わず、
「ああーっ……、いいっ」と歓びの喘ぎが漏らした。
同時に、僕の鈴口から白い粘液が少しずつ溢れ出しているのが確かめられた。
そして時折、キューっと閉まる尻穴が責める田口さんを喜ばせた。
「おおー、いいよ……いいよ」
と、快楽に翻弄されて切なく呻く僕を励ました。
「ああ、気持ちいい」
という言葉しか、その時僕は思いつかなかった。
何時間、二人は絡み合っていたのだろう。何度もしゃぶられ、色々な格好で挿入され、休憩を鋏ながらも何度も扱かれ、文字通り僕はキンタマが空になるまで放出させられた。
空が白み始めたころ二人はホテルを出た。同じように男同士でチェックアウトする客が他にもいたので、
「東京にはこの類の人々が結構いるんだな」と、僕は妙に感心した。
田口さんと僕は二十四時間営業の立ち食い蕎麦を並んで食べて分かれた。
「眠るなよ! 終点まで連れて行かれちゃうぞ」
田口さんの経験から来た適切なアドバイスだった。疲れ切った身体は座席で一度眠ったら起きることは不可能だった。
僕は電車で睡魔と必死に戦いながら最寄りの駅までたどり着いた。
電車を降りると昇り始めた朝日が眩しかった。僕には太陽が黄色く見えた。
やっとの思いでアパートの部屋に辿り着いた僕は、夕方までベッドに潜って死んだように眠った。
学業とバイトに追われた日々に余裕が出来たのは各大学で学祭が始まったころだった。
田口さんとのあの夜から、ひと月が経った。
僕の股間は、疼き始めていた
池の中をカップルの漕ぐ数隻のスワンボートがゆっくりと動いていた。僕と田口さんはそれを眺めながら淵の道を歩いた。
「乗りたそうだな、乗るか? 」と言う田口さんに、
「いえいえ、大丈夫です」と、苦笑いで返答した。
そばにいると田口さんは「でかいな」と本当に思う。
「何センチあるんですか?」
「ウエストか?」
「いえいえ、身長です」
「若い頃は185あったけどな。今はちょっと縮んで183かな」
僕は驚いて、
「身長って、縮むんですか? 」
「ああっ、お前も六十歳ぐらいになったら150位になるんじゃないか」
「ええっ」
僕も田口さんも、くだらない冗談に同時に笑い出した。
喫茶店に入り、コーヒーを注文してウエイトレスが去ると早速、田口さんが尋ねてきた。
「あれから、どっかへ遊びに行ったか? 」
「いいえ。全然。バイトと大学の明け暮れですよ」
「そうか! 」
と、ちょっと安心したような田口さんの表情が僕は嬉しかった。自分の相方であることを認められたような気がした。
また、アルバイトの時給が安いとか、上京して戸惑ったこまごまとした相談事にも田口さんは相槌を打って頷きながら答えてくれた。
喫茶店を出ると、時計は午後四時を回っていた。田口さんは、
「ちょっと早いけど飯に行くか? 」
「この前の店ですか? 」
「そうだよ、思い出の店だ」
と、田口さんは思わせぶりな笑顔を見せた。
一か月前に僕は、その店で飲みすぎて半ば意識を失い、田口さんにホテルに連れ込まれアナルバージンを奪われたのだった。その状況は殆ど記憶にはないが。
もちろん、酔いがさめた後には男の快楽をたっぷり仕込まれた事もまた事実だった。
僕にとっては、苦いも甘いも両方混ざった、定食も頂ける色々と便利な居酒屋ということになった。
前の時はカウンターで隣り合わせだったが、今回は奥のボックス席だった。
「実は、もう一人来るんだよ、友達が! 」
ビールジョッキを持ち上げて、カチンと合せる寸前に田口さんは大事なことをさりげなく言った。
「えっ! 」
と、問いかける僕を無視して、顎をしゃくり上げて、
「カンパイッ」と言う田口さん。
「今夜はーっ、楽しい夜になるぞう! 」
「飲み過ぎるなよ武男くーん! 」
この夜、店を出るまでに田口さんのこのフレーズを何度聞いたことか。
夕方五時を回って街は薄暗くなり、居酒屋の提灯が目立つ時間になってきた頃だった。
スーツ姿の男が手にハンカチを持って暖簾を潜ってきた。壁際の席の田口さんが立ち上がって手招きすると、男は気付いて軽く手を挙げて近づいてきた。
田口さんに促され僕は壁際に移動した。壁際の僕と田口さんが横並びで男と対面する形になった。
田口さんが何度も「先輩! 」と呼ぶところから、男は高校か大学の先輩だろうと推測した。
男は苅田と名乗った。田口さんの大学の先輩であることも分かった。年齢は、頭頂部まできれいに禿げあがってるところを見ると六十近いだろうと思われた。汗は搔いていたが顔の艶はよかった。スーツも時計も上等なのは僕にも理解できた。
身長は田口さんと僕との中間ぐらいで一七五センチぐらいだろうか。がっちりした柔道経験者体型は三人とも同じだった。
先輩が現れて安心したのか分からないが、田口さんは一番先に酔いがが回ってきたようだった。一時間もすると、
「先輩!……先輩! 」と、苅田さんに何度も呼びかけ、
「もう酔っぱらたのか、田口!」と苅田さんから諭されていた。
千鳥足で田口さんは、
「休んでいきましょう」と苅田さんに呟いていた。
僕が田口さんに会って酔った夜、「休んでいこうか」と言われたことをふと思い出した。
同じホテルだった。違いと言えば、田口さんとの前回は和室だったが今回の部屋は大きな洋室で三人以上に対応出来るようにダブルベッドが二つ並んでサイドに大きな鏡がついていることだった。
苅田さんは全裸になった僕を、
「いいカラダしてるね」と褒めながら自分も脱いだ。
きれいに洗浄した後、僕は苅田さんに抱かれた。
僕の喘ぎに応えるように苅田さんは、
「いいよ……いいよっ! 」と囁きながら太目の自分自身をゆっくりと抜き差しし続けた。
田口さんは服を着たまま部屋の隅でいびきをかいて眠っていた。
一戦を終えた苅田さんと僕は布団を被って眠りについた。
僕は、男のうなり声で目が覚めた。
隣のベッドで田口さんと苅田さんが互いに獣のような唸り声をあげながら絡んでいた。仰向けになった方の両足を肩に担いで浮いた尻に突き入れているのが苅田さんだった。身体を折り曲げるようにされて男を尻穴で受け入れているのが田口さん。
手慣れた動きで二人は態勢を変え、直ぐに後ろから繋がった。
中年の男二人の性欲のぶつかり合いに僕は感心せざるを得なかった。
特に六十歳近いだろう苅田さんのタフさには驚いた。この前に僕も抱かれてるから2連発である。セックス初心者の僕にはまだ分からない深いものがあるのだろうと理解した。
三人は、セックス、シャワー、休憩を繰り返し、ウケと呼ばれる挿入される側とタチと呼ぶ責める側も交替しながら、体力が尽きるまで貪欲に快楽を求めた。
朝日が昇り始めた時刻。、裸の男三人は、抱き合うように同じベッドで深い眠りの最中だった。
田口さんから携帯電話が入ったのは、それから一週間後のことだった。「バイトの件で苅田さんが会いたいといっている」ということだった。
前に会った時に、「時給が安く、条件もあまり良くない今のバイトを変わりたい」とグチったのを、苅田さんは気にかけていたのか、と思うと、ちょっと嬉しかった。
苅田さんの会社は神田の駅前にあった。一階は賃貸などの紹介をする店が入っており、その三階だった。
受付で「苅田」と言う名前を出した時に僕は初めて驚いた。
「苅田支店長でございますか。少々お待ちください」
と、言われたのだ。全国的に知られている会社で、彼がその支店長あることに驚いた。
室内の一番奥だった。僕を確認すると苅田さんは椅子から立ち上がった。
「ごめんごめん、野暮用が出来ちゃってさ。ちょっと時間をつぶしてくれる?」
大事な顧客が会社を訪ねてくることが急に決まったのだった。
時計を見ると、午後三時だった。待ち合わせまで二時間あった。
「パチンコでもしててよ」と苅田さんは五千円札を握らせた。「大丈夫です」と断ったが苅田さんは握った手を離してくれなかった。
「このまま帰られるかも知れない」と思ったんだろう。
僕は、上野まで電車で行って洋画を一本見た。待ち合わせの上野駅前に歩いていくと、ちょうどいい時間だった。
苅田さんは上野にある老舗の鰻屋に連れて行ってくれた。
「さすが支店長! 」と心の中で思った。
苅田さんは僕のバイトの件でも、知り合い伝いに探して条件のよいところを見つけてくれた。
「お礼は、今夜たっぷりと」と、内心思っていた。
新しいバイトは十二月からと決まった。苅田さんの話では、
「今のバイトを辞めると職場に連絡すると、即クビにする所もあるから、それに備えて支度金十万円を早めに出すから」と言うことだった。
苅田さんの配慮に感謝以外の言葉が見つからなかった。
酒を少し飲み、鰻を食べて満足した僕と苅田さんは、冷たくなってきた上野の夜風に当たりながら暖かい缶コーヒーを手に路地裏のラブホテルの門をくぐった。
ほどよく酔って身体が温まって気持ち良い夜だった。先にシャワーを浴びていると苅田さんが入ってきた。
「今夜は僕が受けるから」と言って僕のムスコを触ってきた。
僕は軽く済ませ、部屋に戻ってたばこを一服した。
苅田さんは念入りに尻穴を洗浄したのだろう。十分ほど経つと「やあ、やあ、やあ」と訳の分からない言葉を発しながら部屋に戻ってきた。
僕と苅田さんの全裸での宴がはじまった。二十歳の童顔の青年と五十すぎのおっさんの濃厚な夜が。
ベッドの傍らに立って唇を合わせ、身体をまさぐり、辿り着いたお互いのペニスをしごき合う。シックスナインの態勢を取り、吐息を漏らしながらゆっくりと勃起を舐め合った。
ベッドのに仰向けになった苅田さんの尻穴と、コンドームを嵌めた自分の硬直にローションを塗り込む。
狙いを定めて苅田さんの身体にゆっくりと腰を沈めると、
「ああーっ」と、苅田さんの小さな喘ぎ。
上半身を倒し、身体を合わせ、舌を絡めながら一定のリズムでゆっくりと腰を振る。
「ああっ……いいっ……」
苅田さんが顎を突き出して喘ぐ。
頃合いを見計らって態勢を変える。
後ろから繋がると、気持ち良いのだろう、苅田さんの声色が変わった。
「あーっ……、あーっ……」と泣きそうな声になってきた。
おじさんも疲れて来たのだろう。遂にはベッドにうつ伏せになってしまった。
それでも男が欲しいのだろう、尻だけを持ち上げて僕のモノを後ろから入れて欲しいと、せがんできた。
後から聞いた話では、苅田さんは最初に交わった時から、僕のペニスと相性が良いのを感じていたらしい。ただ、僕の先口の田口さんに気を使ってその時は言わなかったらしい。
僕は苅田さんの中で先にフィニッシュを迎えた。
ベッドで行けなかった苅田さんのために僕はひざまづいて尺八をしてあげた。
全裸で正座した青年が、自分の男根を愛おしそうに舐め回すのを見下ろすのは堪らない。相手を服従させている気になって高揚するらしい。この時も苅田さんはそうだったはずだ。
まもなく、
「ああーっ」
と、ひときわ甲高い声をあげて、僕の口中に断続的に射精した。
ホテルを出たのは午後十一時ごろだった。通りに出て僕は苅田さんのタクシーを拾って見送った。
疲れ切った苅田さんが、タクシーに乗り込んでから僕に向かって笑顔をみせてくれたのは満足した証拠だと思い、内心ほっとした。
これから色々とお世話になる人だから、僕に出来ることはしっかりと取り組んでいこうと決意したのだった。
春。三月を迎え、東京は暖かくなるとともに喧騒も一段と増していた。
僕にとっては、この数か月ほど忙しい時期は経験がなかった。二月半ばになって大学が春休みに入ったので一息ついた感じだった。
大学から地下鉄で二駅離れた不動産会社の雑用兼連絡係としてバイト採用され年末からずっと忙しい日々を送っていた。三月に入っても決算だとかで忙しかったが大学が休みに入った分だけ余裕ができていた。公務員の田口さんも会社の管理職の苅田さんも忙しかったのだろう。
苅田さんとは仕事で二度会ったが、田口さんとは機会がなかった。田口さんのデカマラが時々恋しくなった。
三月末になると決算の準備も終わり、時間に余裕ができた。
その日、久しぶりに上野のアノ映画館に行ってみた。午後三時というのに館内の通路は込み合っていた。座席はまばらに空きがあった。奥の薄暗い一角で怒鳴り声がしたので前の人の肩越しに覗いた。
二十歳前の少年が全裸になっていた。周りの男たちが一斉に襲い掛かって剝ぎ取ったんだろう。着て来たのだろうジャンパー一枚を手に少年は半べそを掻いていた。
少年を取り囲む男たちを怒鳴っていたのは、二人のじいさんだった。手には取り返した少年のジーンズを持っていた。
僕は、その一人の薄汚れたオーバーオールを着たじいさんに見覚えがあった。前に来た時に僕にしつこく付き纏い田口さんに怒鳴られた白髪のじいさんに違いなかった。
ある意味、僕と田口にとっては、薄汚れたキューピッドでもあった。
少年はじいさん二人に肩を抱かれて暗がりから外に出た。ジーンズは白髪じいさん手に持ったままで少年はジャンパーを羽織っただけで下半身は剝き出しだった。
引き締まった色白の尻と、細身の体に似合わぬ太さの半勃ちペニスに僕は感心した
そして、この時ある予感がした。
五分待ってトイレに行った。予感は当たっていた。
隣の個室から覗き込む男、個室のドアに耳をそばだてて自分のものを扱いてる男と、それぞれだった。
個室から、少年の切なそうな喘ぎ声が途切れ途切れに漏れてくる。
中から聞こえる「ぱちっ、ぱちっ」という湿った音はじいさんの腰が少年の尻に当たる音だった。「うーん、うーん」と言う唸りは白髪じいさんがしゃぶっている時にでる声だと分かった。
僕は、入口わきの待合室でコーラを飲んでいた。しばらくして三人が出て来た。
少年は、すっきりした爽やかな表情で映画館から出て行った。
「初めてじゃないな。あの若さで結構遊んでるんだな」と、僕は思った。
二人のタフなじいさんは、再び館内に突撃していった。僕は苦笑いしてしまった。
周りの人としばらく休憩してから館内に入って見ると、少年をバックで責めていたあのじいさんが一番前の席で大股を開いていびきを掻いていた。
だれかが悪戯したのだろう、ジッパーが全開にされて小ぶりのペニスが剥き出しにされていた。
学校が春休みということもあるのだろう。ふだんはほとんど見ない若者もちらほらと見かけた。
自分は男色を知ってまだ半年で交わりも数えるほどしか知らないし、相手も年の離れた先輩ばかりだが、若い奴はどうなんだろう、自分と同年代同士のゲイセックスは。
三月下旬。バイト先の不動産会社の決算の準備もほぼ終わり、僕は忙しさから解放された。
もっとも、支店は賃貸も扱っているため店自体は一年で最も忙しい時期を迎えていた。
この日は久しぶりの休日だった。大学が春休みということもあり、のんびり過ごそうと決めていた。
狭い部屋に籠っているのは好きじゃないので、僕は買い物がてらラフな恰好で上野に出た。
夕飯まで時間もあることだし、遊んでいこうとロッカーに買った荷物を預け、目の保養でもしようかと例の映画館に向かった。
街中の人々は年度末で忙しく働いているというのに、一隅のゲイの集う映画館は館内も待合室もすれ違うのも大変なほど混みあっていた。
リタイアした年金暮らしの老人が多いのはもちろんだが、働き盛りのはずの中年の男たちも結構いた。
みんな好きなんだなあ、と僕は感心しながら入口脇の待合室で雑談に耳を傾けながらコーラを口にしていた。
暗がりから扉をドンと押して若い男が勢いよく出て来た。黒のタンクトップで上半身の筋肉を強調し、ぴったりと張り付いたグレーのスウェットパンツは股間の膨らみを強調していた。
そして、その顔を見た時、僕は思わず、自分の目を見開いて凝視してしまった。
若者が出口に歩を進めた時、僕は思わず、
「横田ー! 」と叫んでしまった。
若者は吃驚した様子で振りむき、僕の顔を確認すると、彼もまた目を見開き、
「タケーっ」と、僕の名を叫んだ。
僕が、
「なんだよ、その恰好」
と、言う前に横田が、
「なんだよ、その頭! 」
と、僕の角刈りをからかった。
通う学校は違ったが、横田と僕は中学時代からの柔道のライバルで、勝ち抜いていくと必ず彼との対戦になり、いつも僕が負けた。それでも「強くなってるぞ」と、いつも健闘を称えてくれるナイスガイが横田だった。
柔道の強い地元の大学に進むと言っていた彼だったが、高校の三年になると大会で見かけなくなった。人づてに聞いた話では「ケガで柔道をやめた」とのことだった。その後、彼と会うこともなく高校生活は終わりを告げた。
彼に、何があったのだろうという疑問はずっと持ち続けていた。
それが春休みに、東京のこの場所で彼に会うとは、夢にも思っていなかった。
二年ぶりの出会いに感謝し、僕らは一緒に上野の街に出て居酒屋で乾杯した。
僕がゲイの道を歩み始めていることを敏感に感じ取った横田は、たわいもない雑談の後、自分のあの頃を語ってくれた。
高一の秋に先輩コーチに犯られ、卒業までたっぷり仕込まれたこと。そのコーチが他の複数の生徒にも手を出し、嫌いになったこと。コーチが翌年から地元の大学のコーチになると聞いて志望を変更したことなどを、とつとつと語った。
最初は、部の合宿中の深夜に寝ているところをコーチに襲われ、しゃぶられたという。疲労で夢うつつの中でコーチの口中に射精してしまい、その後気付いたという。
数日してお返しを要求されコーチのペニスを尺八させられたという。
その後、コーチのアパートに何度か呼び出され関係を持ったということだった。
高二の秋の練習中に手首を骨折し、治っても握力が落ちて手首に力が入らなくなったのが柔道を辞めた原因だという。
気持ちの持って行き場を失って生活が荒れてしまったと横田は言う。
コーチのゲイ仲間である若い連中や、コーチの行きつけのゲイバーの中年の客などと遊んだという。頭の禿げた六十過ぎの爺さんの相手をして小遣いを貰ったこともあるという。
そしてある時、コーチが他の部員にも手を出していることを知り、彼について行けなくなったという。
それで横田は東京の大学に進学したのか、と僕は納得した。
また、コーチはいったん大学のコーチに就任したが匿名の情報により部員との関係が知れ、後日、免職となっていた。
「お前が情報を寄せたのか? 」
との僕の問いに、横田は沈黙するだけだった。
「それで、今はどうなんだ!」と尋ねると横田は満面に笑みを浮かべ、
「楽しいよ、毎日!」
そして、小声になって、
「今夜、タケを抱けると思うと、凄く楽しい」
と言った。
「ばかっ!」「お前は趣味じゃないよ! 」
と、言って横田の頭をポカリと叩いた僕も、酒を飲んでるせいじゃなく、楽しくなってきていた。
僕と横田は酔いと流れに身体を委ね、一緒にホテルに入った。
高校時代にたっぷり仕込まれ、東京でも研鑽を積んでる横田の技巧はさすがで、僕を何度も泣かせてくれた。
空が白み始める頃、キンタマが空っぽになって射精できなくても男はケツでイクことが出来ると、僕は初めて知った。
電車が走り始めたころ僕らはホテルを出た。僕はフラフラだったが、横田は余裕綽々だった。
高校時代、将棋の駒のような輪郭の顔の横田を「飛車角」と読んでいたが、僕はこの時から彼を「先生」と呼ぶことに決めた。
四月、僕は大学二年になった。一年の単位もほぼ予定通り取得できた。
バイトもしっかりやるために、二年目の授業はできるだけ午前中に取ることに決めた。その方がバイトもしっかりできる。
そのバイトは、三月までは支店勤務だったが、四月からは本社に籍を移しての准社員扱いの連絡兼雑用係となり時給もグンと上がった。本社と支店との往来が主だが外回りの仕事も少し任されることになった。
社員扱いの背広が支給され、スーツにネクタイと革靴という、およそ学生に似つかわしくない恰好で大学にも通うことになった。
頭も、坊主頭はまずいと考え、頭頂部の髪を伸ばし短めの角刈りに変えた。のんびり顔から精悍な顔つきに変わったと自分では思っている。
見方を変えれば、よりゲイらしくなったとも言えた。
大学では、数少ない女友達から言葉を掛けられた。
「どうしたのよ、その頭、恰好」と。
「どうだ、似合うだろう!」
と、言葉を返せる余裕が出来てきていた。
学業よりバイトに充実感を感じてた僕は、どんな言葉も意に介さなかった。
完
25/01/17 14:39更新 / ハゲ爺